2011年3月10日

ビタミンAの話②
-貯蔵・運搬・調節-


ビタミンAは脂溶性ビタミンです。脂溶性なので血液中を自由に流れることは出来ません。常に特定のたんぱく質と結合して移動します。少々専門的な説明になりますが、その過程を見てみましょう。

吸収されたビタミンAは小腸の細胞内でレチノール結合蛋白(ビタミンAを運ぶ蛋白、RBPともいう)と結合します。その後カイロミクロンという脂肪を運ぶための運搬体に入り、脂質と一緒に肝臓まで運ばれます。肝臓の中の貯蔵場所は伊東細胞(stellate cell)という小さな組織だと考えられています。

伊東細胞は肝臓の毛細血管(類洞)の内皮細胞と肝細胞との隙間(disse腔)に存在していて、顕微鏡でみると脂肪のしずくのように見えます。解剖の際に肝臓を調べると、伊東細胞のビタミンAは欠乏状態にある方が多く、潜在的にビタミンAが欠乏している人は多いと考えられています。また、ビタミンAが欠乏すると伊東細胞は性質が変わって肝臓の線維化(肝硬変)を促進することが知られています。

 


肝臓から他の組織へ運ばれる時にもビタミンARBPに結合します。RBPはさらに大きなたんぱく複合体を形成して右図のような形で運ばれます。ここで注目するポイントは、ビタミンAがたんぱく質に覆われていて、血液と接していないということです。

では次に、細胞内に入ったビタミンAはどのように利用されるか見てみましょう。ここではビタミンAから作られるレチノイン酸について説明します。レチノイン酸は細胞の核(DNAのある場所)にある受容体に結合して、特定の遺伝子の発現を調節します。ご存知の通り遺伝子は細胞にさまざまな命令を出していますので、私たちの生命活動に密接に作用しているといえます。

細胞内で作られたレチノイン酸は核に移動するとレチノイン酸結合蛋白(受容体)に結合します。この結合体は二つ集まって初めて遺伝子に働きかけることが出来ます。レチノイン酸は活性の違うトランス型とシス型の二種類の活性に分かれ、それらが相互に入れ替わることで濃度を調整し、活性の強度や時間を微細かつ厳密に調節しています。

先月号でご説明したように、ビタミンAはいまだに誤解の多いビタミンです。例えば、ビタミンAを摂取すると皮膚がやや黄色味を帯びることがあり、過剰症なのではないかと心配される方がいます。しかしこれはたんぱく質の不足によるものと考えられます。ここまで読んでくださった皆様なら、ビタミンAを運搬するためにはタンパク質が不可欠であることがわかるでしょう。同じような症状では黄疸が疑われますが、黄疸の場合眼球結膜(白眼のところ)も黄色くなります。ビタミンA摂取による症状の場合、結膜は黄色くなりません。この時はたんぱく質の摂取量を増やすと肌の色が正常に戻ります。

このように、体はビタミンAに対して様々な調節機構や安全弁を持っています。そして調節機構を十分に働かせるためにはたんぱく質が十分にあることも重要です。知識を身につけて賢く栄養を利用しましょう。

次回はビタミンAの具体的な作用について説明します。