2011年7月10日

ビタミンAの話③
-ビタミンAの働き-


ビタミンAは分化に関わる遺伝子を調節します。分化とは何でしょう。簡単に言うと各々の細胞が各々の役割にふさわしい機能を発揮することです。高等生物は分化によって分業を可能にしました。皮膚は皮膚として、心臓の筋肉は心臓の筋肉としてきちんと働かないと大変困ります。そのために発生のある段階から細胞はその役割を果たすためのたんぱく質を作るようになり、ふさわしい形と機能を備えていきます。成長期が終わっても、幹細胞(元になる細胞)からの細胞分裂は続き、分化して機能を持つ細胞に変わります。分化した細胞には分裂する能力がないのが普通です。

正常に分化することがなぜ重要かを粘膜と皮膚を例にあげて説明してみましょう。粘膜は常に粘液を分泌しています。粘液は表面の乾燥を防ぎ、粘液内のラクトフェリンやリゾチームは感染を防ぎます。ビタミンAが不足すると粘膜細胞が角化して粘液が減ってしまいます。眼球が乾燥するドライアイがその典型例です。ビタミンAの助けを借りて合成される糖たんぱく質のムチンは物理的なバリアを形成してやはり感染を防いでいます。このようにビタミンAが不足すると感染への防御機構が弱くなります。

ニキビの一部は毛孔の異常角化が原因で、ビタミンAが少し欠乏しただけでも起こります。さらにビタミンAが欠乏すると皮膚が乾燥してざらざらになりアトピー性皮膚炎と区別できない状態になります。

高度のビタミンA欠乏によって起こる夜盲症は現在ではほとんどいないと思われていますが、暗順応が低下している人は結構多いようです。網膜で明暗を感じる桿体細胞はレチナールとオプシンというたんぱく質の結合により信号を出しています。パソコンやゲーム機などの光刺激によりビタミンA(レチナール)消費量は格段に増えています。

ビタミンAは精子や胎盤の正常な形成にも役立っているので不妊症の体質改善にも役割が期待出来ます。また最初の母乳(初乳)には大量のビタミンAが含まれているので、新生児の発達にも重要です。

分裂が盛んな細胞に分化を誘導すると性質が変わります。実際にビタミンAの誘導体であるオーストランスレチノイン酸は急性前骨髄性白血病の治療(分化誘導療法)に用いられて好成績を修めています。また子宮頚癌検診などで前がん状態(ClAss IIIなど)と診断された場合には積極的にビタミンAを試してみてもよいのではないでしょうか。もしビタミンA欠乏が原因だった場合には再検査時に正常細胞にもどっている可能性もあるからです。

このようにビタミンAはまだまだ大きな可能性を秘めたビタミンです。今後のさらなる研究が待たれます。