2021年2月1日

腸内細菌の検査

 


腸内細菌は多様性(ダイバーシティ)が命

  善玉細菌を増やすのが'腸活'でしょ。そう単純ではありません。腸内細菌叢において重要なのは多様性です。多種多様な菌がちょうどよいバランスで快適に生きていける状態が最適です。ある菌が席巻つまりある種の菌がはびこって他の菌の存在を脅かす存在になると腸内環境も不穏になって様々な問題が生じます。人間社会と同じですね。


 「雑草」という名前の植物はないように、腸内細菌にも一つ一つ名前があります。遺伝子検査によって多くの菌が同定出来るようになって、それぞれの特徴や役割も少しずつ明らかになっています。腸に役に立つ物質を合成する菌、痩せやすい体質に関係しそうな菌、発酵によって有害な物質を産生する菌などそれぞれの特徴が見えてきました。しかし大事なことは有用菌が100を占めている状態がよいということではなくて、有用な菌も有害な可能性のある菌も、まだ何をしているのか分からない菌も、ある一定程度存在することが最適です。多様性を保つことにより有害と考えられた菌も無害な状態で眠らせることも出来ます。


適切で適度な多様性を持った腸内細菌叢は


        ビタミンを産生し

        消化管に栄養を与え

        蠕動運動を促してくれ、

        気分や嗜好によい影響を与えます。


腸内細菌を味方につけてよりよい人生を目指しましょう。


腸は神の手 ― 司令塔としての腸

 

 腸には膨大な神経ネットワークがあり、脳と同じようにセロトニンやGABA、ドーパミンなどが盛んに分泌されています。私たちが特に意識しなくても様々な調整が行われていて「腸は第二の脳」とか「God Hand  (神の手)」とよばれています。具体例として3つの司令塔の役割について説明していきましょう。


 まずは、栄養の司令塔です。同時に入ってくる食べ物と有害物を区別し必要な量だけ入れる。これはまさに神の領域ですね。わかっているところでは、まずバリアをしっかり形成しておいて、栄養素だけを専用の搬入口から運搬する戦略をとっているようです。量の調節も行います。腸は体の需要状態がちゃんとわかっていて必要なら必要なだけ吸収し不要になったら吸収しないという調節をしています。1970年ごろから1980年代にかけてキャスカート博士が下痢をしないで摂取できるビタミンCの許容量の実験をしました。ビタミンCを少量ずつ追加で摂取していって何グラムになったら下痢になるかの実験です。重い風邪の時には1日総量で100超を吸収することが出来ました。数日して具合が良くなってしまうと4ぐらいで下痢をしてしまったそうです。吸収量必要量なので必要量の幅もそれだけ大きいことになります。亜鉛や鉄などはもう少し許容幅が狭く、特に鉄は必要なくなったら腸の粘膜ごと脱落させる戦略を取っています。


 バリアがしっかりしていない場合には隙間から色々なものが漏れるので、調節が上手く働かないばかりか有害物が体内に侵入し炎症の原因になります。


 二つ目は免疫の司令塔です。生まれてから成長期までの間、免疫細胞の教育は胸腺が担っています。大人になると腸管免疫組織に主役が移行します。リンパ球の約70が腸に存在し見張りや教育をしています。腸管免疫組織はアレルギーや免疫寛容(免疫を働かせない判断)にも関わっています。そこで情報を得た免疫細胞は全身を回ってそれを伝達しています。


 三つ目は心の司令塔ともいえる部分です。まだ未解明の事も多いのですが、腸内細菌バランスや腸内環境が嗜好や気分、特に性格まで左右することがあります。糖分や小麦製品が食べたいという気持ちにカンジダの増殖が関わっているという報告もあります。精神状態が腸内細菌に影響を与えることもわかっています。ストレスや悲しい気分が続くと、有害な腸内細菌の割合が増えたというデータが報告されています。


 人智をはるかに超えた腸の奥深い世界。これからも目が離せませんね。