2021年6月1日

協調して働く栄養素

 

 至適量を見つける際に難しいのは、協調して働く栄養素の存在です。ある働きに9種類の栄養素が必要な場合、8種類が満たされてもあと1種類が足りないと充分に働けません。ですから出来るだけ未精製の食品を食べ、サプリメントを摂る際にも配分が重要です。


 協調する栄養素として有名なのはビタミンB群です。ビタミンB群はエネルギー産生回路に必須の栄養素ですが一つでも不足するとエネルギー回路が止まってしまいます。またビタミンB2B6を活性化していたり、ナイアシンやB12が葉酸の活性化していたりと相互に働きあいます。ビタミン剤はビタミンB群の一部しか含まないため本来の力を発揮しにくくなっています。


 ミネラルに関してはペアとなるミネラル同士のバランスも重要です。ブラザーミネラルという言い方もします。拮抗ミネラルといってもよいでしょう。例えば銅と亜鉛は同じ運搬体を使うのでどちらか一方が多過ぎると他方が運べなくなります。カルシウムとマグネシウムは相互に抑制しあう関係になっていて、特にマグネシウム不足が問題です。有害重金属は必須ミネラルの働きを阻害します。水銀やカドミウムは亜鉛に化学的性質が似ているので亜鉛の場所を占めてしまい、亜鉛を働けなくしてしまいます。量を増やしてもなかなか効果が出ない場合には別の栄養素や阻害要因にも目を向けてみましょう。

多めに入れて体に任せる

 

 栄養療法では、それぞれの栄養素を至適量入れることが大切です。栄養医学の理論上、至適量には大きな個人差があり環境要因によっても大きく左右されます。至適量の見極めこそが栄養療法の本質と言ってもよいでしょう。では至適量はどうやって決めればいいのでしょうか。栄養医学の先達は「多めに入れて体に任せる」と言いました。少ない場合には全く効果が出ないが多い分にはいくら多くても困らないというのです。量効果曲線はS状カーブを描きます。つまり至適量より少ない場合にはほとんど効果を発揮しません。至適量に近づき始めて急速に効果を発揮し始め、あるところで頭打ちになります。そこまで増やしましょうということです。


 このことを実践するためには栄養素の安全性への信頼が必要です。鉄則は口から天然の形で摂ること。口から天然の形で摂りさえすれば体は安全弁を働かせることが出来ます。安全弁には大きく三段階あります。第一の安全弁は腸の吸収です。第二の安全弁は貯蔵と運搬機構です。第三の安全弁は活性型・非活性型の変換です。


 細かい調節については、体感だけでは難しい場合があります。栄養解析検査は完璧ではありませんがいくつもの有用な情報を与えます。検査を上手に組み合わせて自分の至適量を見つけましょう。

パラダイムシフト

 

 パラダイムシフトとはこれまで常識とされてきたことがある時点で劇的に変化することをいいます。コロナ禍において私たちはいくつもの常識を改める必要性に迫られています。それは医療においても同じです。


 オーソモレキュラー栄養医学は体の力を高める根本治療です。ワクチン接種が進んできていますが、重症化しない、させないためには免疫を支える栄養素、炎症を早期に火消しする抗酸化・抗炎症の栄養素で下支えすることが重要です。加えて代謝を正していわゆる基礎疾患を減らしていくことも大切です。


 オーソモレキュラー栄養医学では、生体を動的な分子の統合体と捉えています。"機能の最小単位である分子molecule)”が正しい状態にある(ortho)ことを目指します。量子力学を生体に持ち込み生体の仕組みを解明したのがライナス・ポーリングです。1960年代以降彼の功績によってオーソモレキュラー栄養医学は飛躍的に進歩しました。遺伝子の変異によってたんぱく質のアミノ酸が置き換わり立体構造が変化して働きに支障が出ることや、酵素反応には親和性の違いが大きく影響すること、電子のやり取り、活性酸素が細胞膜や遺伝子を傷つけることによって起きる病気など、今ようやく一般に認知されるようになったことをすでに解明し発表しています。精神疾患に神経伝達物質、酵素反応や酸化が関わっていることを明らかにしていたのもオーソモレキュラー栄養医学です。


 本来は喝采を持って受け止められるはずの輝かしい発見が葬り去られた理由は、栄養素を治療に使ったことが一因でしょう。オーソモレキュラー栄養医学では、分子の材料は栄養素なのだから薬ではなく栄養素によって治すのが当然だと考えました。その量が当時の常識よりも多かったことや権威と呼ばれる人たちが’門外漢’として締め出そうとしたことにより、いつの間にか異端とされてしまいました。


 栄養素での治療は確かに効果を発揮するまでに時間がかかり、切れ味が鈍いと感じる方もいるでしょう。しかし本質的な治療であることは間違いありません。なぜなら体は栄養素の事をよく知っているからです。薬の切れ味と栄養素の根本治療とどちらの恩恵も受けることが出来る社会の実現には栄養医学と医学界が歩み寄ることが大切と考えます。


 ひめのともみクリニックは今年15周年を迎えます。パラダイムシフトにより恩恵を受けられる人が一人でも増えるようにこれからも活動していきます。