2022年9月1日

概日リズムと副腎疲労

  副腎疲労2の改善には、概日リズムの改善、特に睡眠時間のコントロールが重要になります。コルチゾールは抗炎症・抗ストレスホルモンなので組織を壊す方向に働きます。そこでたんぱく質合成を促す成長ホルモンの分泌が大事になるからです。概日リズムを知る一つの方法が唾液コルチゾール日内変動です。唾液コルチゾールは朝に向けて少しずつ上昇し、視交叉上核(主時計)が光に反応した直後に急激に上昇します。「早寝・早起き(朝の光)・朝ごはん」が何よりの薬です。なお、朝のピークが高すぎる場合には高ストレスの初期を、夕方に高いか曲線がフラットになる場合には隠れた炎症を示します。

2)正確には下垂体疲労またはHPA軸障害というのですが長くなるのでまた今度説明します。


時間栄養学の勧め

 

 光や食事、運動が時計にどのように影響を与えるのかをお話してきましたが、いつ食べいつ運動するのかによって効果は変わるのでしょうか。時間による食事の効果の差を研究する学問を時間栄養学と呼びます。運動に関しての時間運動学、薬の効果を研究する時間薬理学などもあります。


 血糖値に関してはかなりデータがあって、朝の糖質摂取は血糖値の上昇が少なく、朝食を抜いて昼、夜に炭水化物を食べたり、朝食べた後昼を抜いて夕食を食べたりした後には血糖値スパイクが大きくなることがわかっています。


 たんぱく質摂取が筋肉量や筋力に与える効果もわかっています。一日のたんぱく質摂取量が同じだったとすると、夜に偏って食べた場合よりも均等に食べた場合の方が筋肉量や筋力の維持効果が高く、さらに朝に多く食べた方が筋肉量と筋力が改善しました。カロリー摂取も朝重点的に摂ったほうが痩せやすいというデータがあります。


 その他、魚油は朝、カルシウムは夕方に吸収率が高いとか、食物繊維を摂る時間帯によって腸内細菌叢に日内変動が見られるとか様々なデータが得られています。


 運動については朝の運動は脂肪燃焼効果が高く血圧を下げる効果が高いことが示されています。一方、午後の運動でも脂肪分解を促す物質がより活発に分泌され、血糖変動を穏やかにしたり肥満を予防したりする効果が高いというデータが出ています。つまり午前から夕方までの幅広い時間帯に運動の効果が示されました。ただし夜の運動は時計を夜型にシフトさせる可能性があるので避けた方がよさそうです。


 これまで様々なダイエットや運動に取り組んで効果が出なかったという方は時間を意識してプログラムを組んでみてはいかがでしょうか。


1)参考図書:柴田重信著「食べる時間でこんなに変わる時間栄養学入門」

社会的時差ボケによる健康リスク

 

私たちの体には時計があります。概日リズム、週のリズム、排卵・月経のような月のリズム、季節のリズムなどを刻んでいます。以前は視交叉上核に一つの時計があると考えられていましたが、時計遺伝子の発見により肝臓や腎臓、肺や筋肉など末梢器官それぞれにも独自の時計があることがわかりました。各細胞の時計遺伝子群が周期的に発現したり、周期が減衰するのを抑えたりすることにより細胞の活動時間を決めています。各臓器の周期がバラバラにならないよう調和をとっているのが視交叉上核にある主時計です。


 時計遺伝子には個体差があり、朝型になりやすいか夜型になりやすいか、ショートスリーパーかロングスリーパーかはある程度遺伝的な影響を受けます。しかしながら体内時計は外界の影響で前にずれたり後にずれたりします。日々の生活では24時間と少しの概日リズムを24時間周期に合わせていますし、例えば地球の裏側に移動した時には、最初は時差ボケがあっても数日経つと適応します。光を浴びる時間、食事や体を動かす時間などが大きく時計を動かします。 


 朝の光は時計を前にずらします。外で日光を強めに浴びることが理想的です。夜の光は時計を後にずらします。部屋を暗くしていても、パソコン画面やスマホなどの光が目に入ると時計を後にずらしてしまいます。朝の食事、特に糖質は時計をセットするのに役立ちます。人口甘味料ではこの作用がなく、インスリンの分泌が体内時計を前に進めるのに役立っているようです。ご飯、野菜、魚を組み合わせた和食を朝に摂ると目覚めをすっきりさせたり時計を同調させたりする効果がさらに高まるようです。夜遅くの食事やカフェインは時計を後にずらします。運動については、朝に体を動かすことが時計を前にずらすのは当然として、夕方までの運動ならばリズムを維持する方向に働きます。19時過ぎの運動は時計を後にずらすようです。


 外界の昼夜とずれた生活をすることによって起きる体内時計の乱れを社会的時差ボケと呼びます。夜勤やシフト制の勤務、リモートワークや休校で外に出る機会が減り遅くまでパソコンやスマホの画面を見ていることや、SNS、オンラインゲームなどを深夜まで行うことなどにより社会的時差ボケになる人が増えています。体内リズムの周期がバラバラになったり周期自体が減衰して平坦化してしまい、コルチゾールやメラトニンの分泌が乱れたり、深い睡眠によって得られる成長ホルモンの分泌が妨げられたりします。夜型のリズムを持つ人は、肥満、うつ病のリスクが高く成績や精神衛生スコアが悪いという統計データが得られています。社会的時差ボケのリスクを認識し、時計を正す習慣を身につけることが大切です。