栄養療法を行うときは必ず血液検査をします。栄養療法を開始してからも定期的に血液検査をします。理由は二つあります。
①同じ症状でも原因は様々―血液検査をしないと原因はわからない
②栄養療法の効果の個人差―同じ量を摂っても同じ効果になるとは限らない
②の個人差については前回も触れています。「血液や尿は体の中で起こっていることを覗く窓」ですから栄養療法は「血液・尿診断に始まり、血液・尿診断に終わる」というほど検査の結果を重視します。
検査では主に次のものを測定します
1. 体が作り出しているもの
血球細胞やたんぱく質、コレステロールなど―合成能力
2. 体の機能のもとになるもの
肝臓の酵素など―機能低下の有無を推定
3. 調節により一定に保たれるもの
カリウム、カルシウムなどの電解質やホルモンなど―ホメオスターシス(恒常性)の破綻を推定
検査の異常が起こる原因にはいくつかのパターンがあります
1. 細胞や組織が壊れたことにより血液や尿に漏れだし高値になる場合
2. 材料不足により合成能力および機能が低下している場合
3. 異常に対処しようとしている体の反応を見ている場合
4. 調節能力を超えてしまったためにホメオスターシスが破綻している場合
血液と細胞を浸す細胞間液、細胞内は調節機構を働かせながら互いに物質のやりとりをしているのでかなりの程度、血液から細胞内の状態が推定できます。
当院を訪れる方の多くは診断をそのまま受け入れて下さいますが、時折「検診では何も異常を言われていない」とおっしゃる方がいます。検診や一般医療機関の検査では「診断の基準」が違います。検診は病気の発見が目的で「健康だと思われている集団(基準値)から数値が外れているかどうか」を診断基準にします。「集団から外れている=病気」という考え方ですね。栄養医学ではあくまで個人の状態をみます。「その人にとって理想の状態(理想値)からどのようにずれているか」を重要視します。私たちは「目標値(理想値)」を設定して治療の目標を明確にする試みをしています。でも本来理想値も一人一人少しずつ違っています。
見ている数字は同じでも、視点を変えることで新しい世界が広がります。これまでの知識に少しだけ新しい解釈を加えるとよりよい医療を行うことが出来ます。栄養医学はいつでも誰にでも開かれていますので診断に興味がある方はぜひ一緒に学びましょう。
「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない」
―ヒポクラテスの誓い(小川鼎三訳)より