2012年1月10日

栄養療法に何が出来るか-生・老・病・死-
-生命の誕生②-


前回から、生命の神秘-生命の誕生について栄養の立場からお話をしています。今回は妊娠後期や授乳期の栄養の話です。

つわりが終わってお腹が目立つようになってくるころには赤ちゃんの器官の分化はほぼ終わり流産の確率も減ります。赤ちゃんは成長と成熟の時期を迎えます。赤ちゃんの成長に合わせてお母さんの食欲も出てきます。健康な赤ちゃんを安全に出産するためにはどんな点に気を配ったらよいのでしょうか。そのヒントは赤ちゃんが必要とする栄養にありそうです。正しい食事は妊娠合併症の予防にも役立ちます。ゆったりとした気持で新しい生命を育んでいきましょう。

妊娠後期の栄養

安定期にはいると日に日にお腹が大きくなっていきます。胎児の動きも感じられるようになります。これからは体が成長するのに必要な栄養素をたくさん摂る時期です。体の成長に必要な栄養素は何か、具体的に考えてみましょう。

まず体の材料はすべてたんぱく質が基本となって出来ています。筋肉も骨の土台も血管も赤血球の中身も細胞の酵素も全部たんぱく質です。神経は脂質が多い組織ですがたんぱく質の働きなしには形成出来ません。たんぱく質をきちんと摂ることにまず心を配りましょう。

赤血球や筋肉には酸素を運ぶための鉄が必要です。赤血球や筋肉の量も勢いよく増えていきますから鉄の摂取量を増やしましょう。生まれてから間もなくは成長のスピードが早いため赤ちゃんはある程度鉄を貯えて産まれてきます。この時期に十分な貯えが出来ないと母乳だけでは足りなくなり赤ちゃんの成長が遅れてしまいます。またお母さんの貯蔵鉄が不足すると産後のうつ症状につながることがあります。吸収のよい動物性の鉄(ヘム鉄など)を中心に食べてください。

骨の成長も著しいですね。コラーゲンなどで出来た骨組みにカルシウムが沈着して硬い骨が形成されていきます。食べる量が少ないとお母さんの骨からカルシウムの移動が起こります。カルシウムは骨を形成するだけでなくマグネシウムと協調して血圧や自律神経やホルモンなど体内の調節シグナルに関わっています。妊娠合併症の予防にも大変重要なミネラルです。

たんぱく質が正常に働くために補酵素の役割も忘れてはなりません。代表的なのはビタミンB群です。ビタミンB群は、エネルギー産生はもちろん、たんぱく質の合成や神経の機能にも関わっています。脳の発達にも大変重要です。

このように見ていくと、食事はカロリーではなく栄養素の量で考えることが大切であることがわかりますね。コレステロールや必須脂肪酸などの脂質も体を形成する上で大切な栄養素です。必要な栄養素をしっかり摂ったうえでカロリーの調節を行いましょう。

妊娠期のアレルゲン除去食について

妊娠中に、アレルギーの原因物質になりやすい食べ物(卵、牛乳、大豆など)を避ける食事療法は今ではほとんど行われていないようです。栄養医学の観点からもお勧めしません。お母さん自身がアレルギーで食べられない食品以外はたんぱく質食品を避ける必要はないでしょう。むしろ腸の環境を整えて低分子まで消化して吸収できるようにしながら、たんぱく質食品に含まれる必須栄養素を十分摂る事に利点があります。お母さんが多くの食品にアレルギーを持っている場合は、アミノ酸やペプタイド(分解したたんぱく質)や必須栄養素のサプリメントを使用して必須栄養素が不足しないように心がけてください。