2012年5月20日

カルシウムの話②
-カルシウムの調節機構-


副甲状腺・骨・腸・腎臓・皮膚のコラボレーション

地上で生活する生物にとって骨の形成維持は体を支える重要な戦略です。たとえば宇宙のような無重力のところで生活すると骨密度はどんどん減少していきます。先日167日間という宇宙滞在最長記録を携えて帰還した宇宙飛行士の古川聡さんは、トレードマークの笑顔は絶やしませんでしたが帰還直後は立ったり歩いたり出来なかったそうです(ただし骨だけでなく平衡感覚の問題もあるようです)。

このように重力に対抗するのに大事な骨ですが「血液中のカルシウムを維持するための骨」という側面を説明してみようと思います。

カルシウムは細胞中に信号を伝えたり筋肉や線維を動かしたりするのに重要な働きをしています。そのためには血液中と細胞内の濃度が厳密にコントロールされている必要があります。

血液中のカルシウム濃度が低下すると副甲状腺からPTH(副甲状腺ホルモン)が分泌され骨と腎臓に働きかけます。PTHはビタミンDを活性型に変える指令も出します。ビタミンDの活性化には皮膚の紫外線、肝臓での酵素反応、腎臓での酵素反応が必要です。ビタミンDは小腸や腎臓、骨に働きかけ血液中のカルシウムが正常に戻ります。

 


ところがカルシウム欠乏が続くと困ったことが起こります。PTHの働きが持続し細胞にあるカルシウムチャネルが開きっぱなしになる結果、細胞内のカルシウム濃度が上昇してしまうのです。通常110000に保たれていた濃度差が1010000になると信号伝達が遅れます。たとえば野球選手がいくら頑張って筋肉を鍛えてもカルシウムが不足すると反応が鈍くなりバットを振り遅れる事態となります。

血糖上昇を感知してインスリンを出す仕組みにもカルシウムが関与しています。糖尿病ではインスリン分泌が遅れる減少が観察されます。尿に糖が出るとカルシウムの尿中排泄が増えカルシウム不足が起こりやすくなります。カルシウム不足インスリン分泌の遅れに拍車をかけます。血液中のカルシウム濃度は下がりにくくなかなかカルシウム不足に気付きません。気づいた時には骨粗鬆症がかなり進行してしまっています。

このようにカルシウムは自律神経や血圧、ホルモンなどにも深く関係しています。次回はカルシウムとペアで働くマグネシウムについてぜひお話してみたいと思います。