2023年2月1日

AGEsと骨折リスク

骨折は骨密度が低い人だけに起きると思っていませんか。自分は骨密度が高いから大丈夫と思っていたのにある日転倒して骨折!という方は意外に多いです。特に糖尿病を持っている方に多く見受けられます。


骨折のリスクには骨密度だけでなく骨質も関係します。骨質とは鉄筋にあたるコラーゲンなどのたんぱく質とコンクリートにあたるカルシウムやマグネシウムなどを合わせた性質の事です。ご存知のように体はたんぱく質で出来ています。体の組織であるたんぱく質に糖がつく、つまりAGE化してしまうと体の構造や働きに影響します。コラーゲンも例外ではなく、特にコラーゲンを架橋している部分がAGEs化すると線維全体が硬くてもろくなります。歳をとると皮膚のたるみやしわ、黄ばみが気になりますよね。これがコラーゲンのAGE化です。骨の線維がAGEs架橋されれば線維構造つまり骨質が弱くなり骨折のリスクが高まります。AGEsは筋肉量や筋力の低下にも関係しています。筋力が低下すると動かなくなり、動けないことでさらに骨折リスクをさらに高めます。


 もっと恐ろしい話をしましょう。AGEsは細胞膜に存在するAGE受容体RAGEに結合するとNFkBを活性化して炎症を惹起します。NADPHオキシダーゼを介した経路で活性酸素を増やします。AGEsが酸化と糖化を亢進し、糖化と酸化がAGEsの産生を増やします。負のスパイラルです。


 糖尿病になるずっと前からAGEsの蓄積が始まっています。一度蓄積したAGEsは短期間では取り除くことが難しくなります。AGEリーダーや血清ペントシジンなどの測定により早めにリスクに気づき対処を始めることが大切です。

水素がつくる明るい未来

 水素H2は地球上で最も軽い分子です。この小さな分子が人類を救うほどの大きな力を持っています。我々が老化や病気の予防の時に度々問題にしている活性酸素と炎症を抑制する作用があるからです。


水素はとても安定な物質ですが、活性の高い活性酸素が近くにあると結合して安定化します。活性が低い活性酸素とは反応しないので選択的抗酸化作用と呼びます。活性の高い活性酸素はヒドロキシラジカルや過酸化亜硝酸塩などで悪玉活性酸素と呼ばれ組織障害性が高く、存在しない方がよい活性酸素です。活性の低い活性酸素とは過酸化水素、一酸化窒素ラジカル、一重項酸素などのことで、生体内で何らかの役割を果たしている可能性がある活性酸素たちです。


水素は、炎症を抑制することも知られています。基礎研究のレベルではNFκBを介して炎症を抑制することがわかっています。


 NFκBは炎症や細胞増殖、細胞死などに関する遺伝子の発現のスイッチを入れる因子です。


 ある種の防御因子で抗炎症作用を持つNrf2を刺激することも知られています。Nrf2は解毒や抗酸化に関わる酵素の発現を増やします。AGEsを直接減らす作用があることもわかっています。良いことづくめですね。


 水素は相手があればいつでも反応してしまうので、目的の臓器に届かせることが課題です。ですから効かせたい場所によって水素発生カプセルを服用したり、水素ガスを吸入したり生理食塩水に水素ガスを封入して点滴したりします。関節の炎症を抑えたい時には直接関節内に注射する方法もあります。みなさんも水素が効果を発揮するためには、どれだけの量をどのように体内に入れるかを考えながら選択してくださいね。

註2)辻直樹著「なぜ水素で細胞から若返るのか」を一部参考にさせていただきました。

血管年齢を若くする

血管はすべての臓器の細胞に酸素と栄養素を送ります。心臓、肝臓、腎臓などそれぞれの臓器には特有の老化の要因がありますが、そもそも血管が若く健全でないとすべての臓器が働けなくなってしまいます。小さな脳梗塞が積み重なれば脳細胞の機能が衰えて認知症のリスクも増大します。冠動脈が狭くなれば心臓の働きが弱くなり突然死のリスクが高まります。脚にいく血管が狭いと歩くことに支障が出て社会活動が減り、幸せに暮らせなくなってしまいます。


大きな血管では、プラークによる内腔の狭まりが問題になります。軟らかいプラークではそこから血栓が飛んだり爆発的な血栓が形成されたりして閉塞が起きるリスクがあります。プラークと言うと高コレステロールを思い浮かべる方も多いでしょう。でもコレステロールが正常でもプラークが出来る人がいるし、コレステロールが高くてもプラークが出来ない人もいます。プラークの最初のきっかけは血管の傷だからです。血管の内側では絶えず血管を脅かす出来事が起きています。血圧の上昇、血糖値スパイク、真菌・細菌やウイルス、毒素、喫煙、緊張など。特に食後の血糖値スパイクは日常的に血管を痛めます。健全な血管内皮であればそれらの衝撃をはねのけて血管を守ることが出来ますが、回数や程度がひどくなると衝撃を吸収したり修復したり出来なくなり血管の内側に傷が出来ます。傷を修復する過程でコレステロール(リポ蛋白(a)など)の修復分子が増産され沈積して動脈壁を仮修復します。これがプラークの正体です。


 血管を守るためには糖化・酸化・炎症を防ぐことが大切です。具体的には糖や質の悪い脂質を食べ過ぎないこと、喫煙をやめること、歯周病を治すこと、運動をして睡眠をしっかりとること、血圧を改善することです。単なる肥満なのか、内臓脂肪や肝臓の細胞の炎症を伴うメタボリックシンドロームなのかの見極めがとても大切です。検診で脂肪肝や高脂血症と診断されたら、薬で数値だけを下げようとせず、背景に隠れている糖化、酸化、炎症を改善しましょう。


 隠れ栄養不足も動脈硬化の要因になるという話を付け加えておきましょう。Hans W. Dielさんは健康的な生活をし、検診結果も完璧でした。ところがある日突然心筋梗塞を起こしてしまいます。薬を処方されましたが5年後再度の発作が起きます。必死に改善方法を調べ「ビタミンCや微量元素の不足によって動脈壁が弱く不安定になり、その結果修復分子としてのリポ蛋白(a)が高くなっている」という仮説を知りました。それからは自分に必要な量の栄養素摂取に励みリポ蛋白(a)が低下、心身ともに健康な状態が得られたそうです註1

 

 悪い物を体に入れない、良い栄養素を摂る

 

 健康で幸せな未来は与えられるものではなく自分でつかみ取るものです。私達は今年も皆様の健康のお手伝いをしていきます。

  註1「オーソモレキュラー栄養医学ニュースより抜粋」

2022年9月1日

概日リズムと副腎疲労

  副腎疲労2の改善には、概日リズムの改善、特に睡眠時間のコントロールが重要になります。コルチゾールは抗炎症・抗ストレスホルモンなので組織を壊す方向に働きます。そこでたんぱく質合成を促す成長ホルモンの分泌が大事になるからです。概日リズムを知る一つの方法が唾液コルチゾール日内変動です。唾液コルチゾールは朝に向けて少しずつ上昇し、視交叉上核(主時計)が光に反応した直後に急激に上昇します。「早寝・早起き(朝の光)・朝ごはん」が何よりの薬です。なお、朝のピークが高すぎる場合には高ストレスの初期を、夕方に高いか曲線がフラットになる場合には隠れた炎症を示します。

2)正確には下垂体疲労またはHPA軸障害というのですが長くなるのでまた今度説明します。


時間栄養学の勧め

 

 光や食事、運動が時計にどのように影響を与えるのかをお話してきましたが、いつ食べいつ運動するのかによって効果は変わるのでしょうか。時間による食事の効果の差を研究する学問を時間栄養学と呼びます。運動に関しての時間運動学、薬の効果を研究する時間薬理学などもあります。


 血糖値に関してはかなりデータがあって、朝の糖質摂取は血糖値の上昇が少なく、朝食を抜いて昼、夜に炭水化物を食べたり、朝食べた後昼を抜いて夕食を食べたりした後には血糖値スパイクが大きくなることがわかっています。


 たんぱく質摂取が筋肉量や筋力に与える効果もわかっています。一日のたんぱく質摂取量が同じだったとすると、夜に偏って食べた場合よりも均等に食べた場合の方が筋肉量や筋力の維持効果が高く、さらに朝に多く食べた方が筋肉量と筋力が改善しました。カロリー摂取も朝重点的に摂ったほうが痩せやすいというデータがあります。


 その他、魚油は朝、カルシウムは夕方に吸収率が高いとか、食物繊維を摂る時間帯によって腸内細菌叢に日内変動が見られるとか様々なデータが得られています。


 運動については朝の運動は脂肪燃焼効果が高く血圧を下げる効果が高いことが示されています。一方、午後の運動でも脂肪分解を促す物質がより活発に分泌され、血糖変動を穏やかにしたり肥満を予防したりする効果が高いというデータが出ています。つまり午前から夕方までの幅広い時間帯に運動の効果が示されました。ただし夜の運動は時計を夜型にシフトさせる可能性があるので避けた方がよさそうです。


 これまで様々なダイエットや運動に取り組んで効果が出なかったという方は時間を意識してプログラムを組んでみてはいかがでしょうか。


1)参考図書:柴田重信著「食べる時間でこんなに変わる時間栄養学入門」