2011年8月10日

サプリメント小話
-サプリメントが効かない訳-


診察の時にある栄養素が足りないと言われたAさん、いそいそとドラッグストアに行きサプリメントを飲み始めます。いさんで行った次の検査でも変化がない!「サプリメントなんか効かないじゃないか」と怒り始めます。

がんの専門医のところに行って治療をしているBさん、おそるおそるサプリメントについて尋ねると「そんなもの高いだけで効かない」とあっさり言われてしましました。サプリメントは本当に効かないのでしょうか? なぜ効かないと思われているのでしょうか?

サプリメントが効かない時には3つの原因が考えられます。

 

     そもそも有効な成分が入っていない!(サプリメントの問題)

     成分は入っているがその量では足りない(量の問題)

     一種類のサプリメントでは効果がない(成分の組み合わせの問題)

 

あなたはこの3要素を考えてサプリメントを選んでいるでしょうか? 例えばについては箱や袋に含有量が書いてあっても実際の出来上がった製品について調べてみるとかなり少ない量しか含まれていないこともあるのです。についてはこれまで述べてきた様に体質による個人差や現在置かれている環境、食事から摂取している栄養素との兼ね合いなどがあり一人一人判定しなくてはいけない問題です。効果を出すための条件を検証していくと、条件をきちんと満たしていることはかなり少ないのです。「サプリメントは毒にも薬にもならない」なんて思わずに飲むからにはきちんと選びたいものですね。

 

暮らしに役立つ栄養療法
-脳梗塞の予防-


6月から8月にかけて脳梗塞の発生頻度が高いそうです。知らないうちに脱水になって血液の循環量が低下するためと説明されています。適切な水分補給はもちろん大切ですが、血栓を防ぐ体の仕組みを維持することはもっと大切です。

血管の最も内側にあり血液に接している内皮細胞は、血栓を防ぐ役割を持っています。内皮細胞が傷ついて細胞の働きが低下すると動脈硬化が起こり、その場所から爆発的に血栓が出来ます。内皮細胞を傷つける要因は何でしょう?

一つは血液中を流れるリポ蛋白(脂質たんぱく複合体)の酸化と変形です。血糖値が高い時には糖とたんぱく質が化学反応を起こして変形します。また中性脂肪が高い人では異常に小さいリポ蛋白(small dense LDL)が増え、これがたいへん酸化しやすいことがわかっています。酸化・変形した蛋白は内皮細胞の隙間から血管壁に侵入しマクロファージによって食べられ蓄積します。

 


血圧の急激な変動も危険因子になります。特に夜間に血圧が下がらない方や、明け方に急激な血圧の上昇がある方は要注意です。寝ている間の血圧は24時間自動血圧計で測定できるので、自分の血圧パターンを一度調べてみることもお勧めです。

歯周病菌などの細菌も動脈に炎症を起こす可能性があります。歯と全身は関係ないと放置せず、常日頃からきちんと予防、治療することが大切です。

食べ物による予防は、3つのポイントを押さえましょう。

          血糖値の上昇を防ぎ、ビタミンB群により糖と脂質の代謝を正常化する

          活性酸素を消去する栄養素をしっかり摂る

          ω3系の脂質(EPADHA)の摂取割合を増やす

ω3系の脂質は血栓形成のシグナルになるトロンボキサンA2を減らし血栓を予防するプロスタグランジンI2の割合を増やします。

水分をとっても、血液中を流れるたんぱく質、特にアルブミンの量が少ないと血管外に出て行ってしまいます。アルブミンは膠質浸透圧によって血管の中に水分を引き戻す働きをしているからです。むくみやすい方はたんぱく質の合成を増やすような栄養素を摂りましょう。

必須栄養素をしっかり摂り、脂質バランスを工夫し、水分を補給することが脳梗塞の予防になります。結局熱中症対策や夏バテ対策と同じなんですね。

食事療法の嘘?本当?
-脂質代謝①-


糖質制限食と脂質代謝の話をする約束でしたね。

その前に、脂質にもいろいろあるということを皆さんに理解していただく必要があります。

主にカロリー源になるのは中性脂肪(トリグリセライド)です。3本の脂肪鎖が結びついて出来ています。脂肪細胞に蓄えられている脂肪のほとんどは中性脂肪です。利用される時には脂肪鎖が切り離されてエネルギー源になります。脂質のカロリーといった場合は中性脂肪のことを指しています。

細胞膜を形作り、シグナル伝達や膜の機能を果たしているのはリン脂質です。2本の脂肪鎖の脚と水溶性の頭を持っています。脚と頭の種類によって性質や役割が変わります。
 

リン脂質の一部は合成できない必須脂肪酸です。リン脂質の特徴は大きく二つあります。一つは膜の流動性や興奮性などの性質を変えること、もう一つは切り出されて局所ホルモン物質に変わることです。プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどの名前で呼ばれていて、アレルギー反応、炎症反応、血栓形成や溶解にも関わっています。

コレステロールは上の二つとは全く違う形をしています。細胞膜に存在して膜の固さを調節したり、ホルモンの骨格になったりします。コレステロールは体の機能にとってなくてはならない物質です。通常食べた量では足りずに肝臓で合成しています。

このように脂質にはいろいろな種類があり働きも異なります。高脂血症と一口で言ってもその実態は様々ですから原因や実態に合わせて治療法を変える必要があります。

次回も引き続き脂質の話をしていきます。お楽しみに!

ナイアシンの話①
-潜在性ナイアシン欠乏症を見逃すな!-


ペラグラという病気があります。重症のナイアシン欠乏症のことです。皮膚、消化管、脳に症状が出ます。例えば太陽の光にあたると赤い発疹が出、その後もなかなか治らずに発疹が茶色に変色してうろこのようになります。また消化管全体に異常が起き、舌と口が炎症を起こして赤くなります。舌が腫れ、口がヒリヒリし、口内炎が生じます。のどや食道にもヒリヒリした感覚が生じます。その他、吐き気、嘔吐、便秘、下痢などの症状があります。欠乏がさらに続くと疲労、不眠、無感情が現れます。そして、治療をしなければ脳の機能不全(脳症)が続いて起こります。錯乱、見当識の喪失、幻覚、記憶喪失などが起こります。

日本では、重症のビタミン欠乏症(脚気やペラグラなど)は存在しないと思われています。でも軽度の欠乏症つまり潜在性欠乏症の方はかなりいるのではないでしょうか? 日光過敏症で日に当たったところが赤く腫れるとか、下痢や便秘や口内炎を繰り返すとか、記憶力の低下や疲労感が起こるとか。思い当たることはありませんか? 欠乏症と診断できればビタミンを補うだけで不快で困った症状が改善するのです。

ナイアシン欠乏では聴覚過敏症も起こります。本来気にならないような日常の音、人の話し声や街頭のスピーカーの音、食器や楽器の音などを異常に大きく不快に感じる病気です(ただし耳の問題で起こることもありますので検査が必要です)本人の苦痛は大変大きいのになかなか理解されません。ナイアシン欠乏が原因ならナイアシン服用で治ります。

統合失調症に特徴的と考えられている症状には幻覚、妄想、睡眠の障害、集中力の低下、感情の鈍麻、意欲の低下などがあります。統合失調症と診断された方の一部にナイアシン欠乏症の方がまぎれているかもしれません。欠乏症と診断出来たかどうかでその後の運命が大きく変わるのですから精神科の先生方はナイアシン欠乏の可能性を頭の片隅に考えながら診断していただきたいものです。ただしナイアシン単独欠乏のことは少なく他の栄養素の欠乏も伴うことが多いので改善には試行錯誤が必要です。

次回はナイアシンの働きや必要量について説明する予定です。

栄養療法に何が出来るか-生・老・病・死-
-がんの予防とがんとの共生-


前回、がん細胞が目に見える形になるためには20年以上もの長い年月がかかること、体にはがん細胞を排除する様々な仕組みがあることを説明しました。では、私たちはがんとどのように向き合っていけばよいのでしょうか?

次の3つのステップを考えましょう

     がん細胞が出来ることを予防し、出来た異常細胞は免疫機構により排除する

     早期に発見することで、体の機能を残したままがん細胞を取り除く

     取り除けないがん細胞とは共存する

残念ながら一つで効果を発揮する万能のサプリメントや栄養素は存在しません。天然成分から抗がん作用や免疫強化として有望な成分はいくつか見つかりましたが、単独で十分な効果を示すものはありませんでした。地道に複数の栄養素を使い体本来の機能を高めていくことが重要です。特にがん細胞が目に見える大きさになった時には複数の方法で総合的に対策を練る必要があります。

がんと向き合う上でもう一つ重要なことは、がん細胞を徹底的に除くことを目指さないということです。体にダメージがない範囲であればがん細胞はないに越したことはありません。しかし、がん細胞をなくすことを優先して体の機能が痛めつけられると全体としては不利益の方が大きいこともあるのです。

さあ、心構えはできましたか?まずは予防のステップに入っていきましょう。

予防の第一は細胞をがん化させる要因を出来る限り減らすことです。現在わかっている環境要因はウィルス(肝炎ウィルス、ヒトパピローマウィルスなど)や細菌(ヘリコバクター・ピロリ)などの感染症、喫煙、化学物質、紫外線、放射線、間違った食習慣による代謝の乱れなどです。体質的な要因にはDNA修復酵素やがん抑制遺伝子の突然変異があります。

上記の要因のうち直接遺伝子を変化させるものもありますが、多くは活性酸素やフリーラジカルを通して遺伝子や細胞膜を変化させます。そこで対策の第一はフリーラジカルと活性酸素の消去となります。

 


活性酸素の消去には抗酸化ビタミン(カロチン、ビタミンA,C,E)・ミネラル(適切な割合の銅と亜鉛、鉄、セレンなど)と抗酸化物質(グルタチオン、コエンザイムQ10、フラボノイドなど)が必要です。これらの抗酸化物質は協調して働くため数種類を同時に摂る方が効果的です。

異常を起こした遺伝子の修復機構を高めることも重要です。細胞修復の材料として核酸やビタミンB群、ナイアシンなどが常に十分ある状態にしましょう。そして修復力を高めるたんぱく質の材料もしっかり入れましょう。

細胞の正常な分化を維持するためにはビタミンAやビタミンDなども役に立ちます。前がん細胞と呼ばれているものの多くは分化の異常なのです。

がん細胞を監視している免疫細胞の働きも重要です。免疫機構は年齢とともに衰えます。免疫細胞の教育機関である胸腺は20歳を過ぎると萎縮して機能を失います。代わって腸管にあるパイエル板が教育に重要な働きを示すようになります。腸の健康は全身の健康に大きくかかわっています。

免疫を活性化する物質を摂る時には必ず免疫細胞の栄養を一緒に補充します。免疫細胞や腸管が栄養不良では「痩せ馬にむちを打つ」ことになり効果があがりません。免疫細胞や腸上皮細胞の栄養源はぶどう糖ではなくグルタミンというアミノ酸です。

またまた紙面が足りなくなってしまいました。次回はがんが見つかったらどうするかと、がんとの共生について詳しく述べていくことにします。