がん細胞が目に見える大きさになるまで長い期間かかること、がん細胞の原因となる遺伝子や細胞膜の異常にはフリーラジカルや活性酸素が関わっていること、免疫細胞ががん細胞を排除しようとする機構が働いていることなどを説明してきました。今回は「がんは慢性疾患である」をキーワードにがん細胞との付き合い方を述べていきたいと思います。
がんの治療法がまだ少なかったころは、治らないというイメージが強く医師も家族も本人に本当の病名を伝えるか深刻に悩んでいた時代がありました。その後、本人に病名をしっかり伝えて一緒に戦うという時代が来て戦い方も様々に進歩しました。そして現在は戦うだけではなく共生する時代が始まっています。治療法も医師が決めるのではなく自分で考え決める時代が来ています。
3回シリーズでお話ししたかったことは、一般の方々が自分の体のことをよく知り病や老いを含めた自分の人生を自分なりに構成していくことの大切さです。がんは長年かけてかかっていく慢性疾患の一つに過ぎません。脳梗塞と同じように予防をし、糖尿病と同じようにコントロールしていくものであり、最終目的は自分らしい幸福な人生です。
がんの予防と他の慢性疾患の予防法は驚くほど似ています。フリーラジカルや活性酸素の抑制と消去,炎症の防止,正常な細胞の機能の維持,免疫機構の正常化です。自分の弱点に早く気づき、補強し修正することが大切です。
ただしがん細胞の塊が目に見えるほど大きくなってしまった場合、いくつか特別な対処が必要となります。というのもがん細胞には厄介な性質があるからです。例えばがん細胞は食欲をなくす物質を出し、栄養を自分に都合よく利用し、体の正常な代謝を攪乱してしまいます。その結果、本来の体はかなりの栄養不足になります。
栄養療法では、体の正常な部分に十分な栄養を送り込むことを試みます。特にがん細胞によって壊されカロリーに変えられてしまうたんぱく質の補給が重要になります。カロリー不足はたんぱく質が壊れる原因になるのでカロリー補給も大切です。たとえば夜食にご飯を食べるといった工夫も必要になります。同時にエネルギー産生や物質の合成の要となるビタミンB群,ナイアシンや鉄,抗酸化作用をもったビタミンCも補給します。ビタミンCには免疫強化やがん細胞への直接作用もあります。しっかり栄養補給をして体の機能を回復すればがん細胞がいても元気に生活することが出来ます。
通常のがん治療は悪さをするがん細胞の数を減らすという点で有効です。早期発見して手術や放射線療法を上手に使えば完全にあるいはかなりの量まで減らすことが出来ます。化学療法は、今のところがん細胞を完全に除去出来ていないので、再発を見据えた治療が必要となるでしょう。これらの治療をする際にも、栄養療法は大いなる威力を発揮します。たとえば手術の傷の治りがよくなり術後の感染症を防ぐことが出来ます。放射線療法との併用では、副作用の吐き気やだるさ、下痢を軽減することが出来ます。転移や再発も起こりにくくなります。
病気であっても快適な生活をして自分の能力を発揮するためにはどうしたらよいか、を起点に考えると、在宅介護の整備であったり、金銭面の不安の解消であったり、痛みや呼吸困難の緩和ケアであったりと、やらなければならないサポートがたくさん見えてきます。
私たちは体の元気を支える栄養療法によって皆さんが自分らしい人生を歩んでいくお手伝いをしたいと思っています。