2012年9月1日

マグネシウムとビタミンB群
-マグネシウム欠乏症-



栄養学者のロジャー・J・ウイリアムズは「栄養素は一つのチームとして働く。必須栄養素は鎖でできた首飾りのようなものだ」と栄養素のことを生命の鎖と表現しました。どれか一つが欠けても全体に影響が及ぶのですべての栄養素が欠けることなく存在しなければならないと主張したのです。

エネルギー(ATP)をつくる反応もひとつながりのサイクルを形成していて、主にビタミンB群を補酵素として利用しています。ただしビタミンB群だけではエネルギーサイクルは完璧ではありません。そこに登場するのがマグネシウムなどのミネラルです。マグネシウムの欠乏によって疲労感や意欲減退、食欲不振、こむら返りや筋力低下、しびれやむずむず感などの症状が起きます。記憶力低下や抑うつ感が表れる人もいます。

マグネシウム欠乏は血液検査ではなかなか見つかりません。というのも血液中のマグネシウムが低下すると骨や筋肉細胞などにあるマグネシウムが血液中に移動して濃度を一定に戻すからです。貯金をどんどん引き出しているのに手元にあるお金が変わらないので預金が減っているのに気付かない状態です。しかも預金残高を調べることが大変に難しいのです。

マグネシウムは様々な状況で尿への排泄が増えます。たとえば糖尿病の人、利尿剤を使用している人、アルコールを多く飲む人、甲状腺ホルモンが過剰の人などは要注意です。ストレスも排泄を増やします。図は学習(精神的ストレス?)や寒冷刺激の後でマグネシウムの尿中排泄が増えたことを示す実験データです。


加工食品の利用や食生活の変化によりマグネシウムの摂取量はかなり減少しているようです。本来カルシウムとマグネシウムの摂取量の比率は11が望ましいのにバランスが崩れています。新鮮な海藻、魚介類、野菜、豆類のメニューを増やしてマグネシウムの摂取量を増やしましょう。

暮らしに役立つ栄養療法
-糖質制限食における脂肪の摂り方②-


今回は前回に引き続き脂質の摂り方について解説します。 必須脂肪酸が体の中で何をしているのか考えてみましょう。

細胞の膜は脂質二重膜とコレステロール、たんぱく質などから出来ています。脂質二重膜を構成しているのはリン脂質で頭部は親水性、脚は脂肪の鎖が2本つながった疎水性の構造をしています。たいていの場合脂肪鎖の1本は飽和脂肪酸ですべての炭素に水素が2個ずつついています。もう一本は不飽和脂肪酸で何ヵ所かの炭素が二重結合で結合しているため水素が1個ずつしかついていません。二重結合のまわりの水素の付き方によってシス型、トランス型があります。生体の脂質の約99.9%はシス型です。
 

マーガリンや加工食品に含まれるトランス脂肪酸は、生体が利用できないため多すぎると害をもたらします。ファーストフードにおいてトランス脂肪酸が規制されるようになったのはこうした知識が一般に広まったためです。

下図のようにシス型の不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がっています。二重結合の場所と個数により折れ曲がりの 程度や膜の柔らかさ、横への動きやすさなどが左右されます。




膜内での各脂肪酸の存在比率は、食べた脂質の比率に深い 関係があります。ですから脂質を食べる時には不飽和脂肪酸の種類と比率に気を配ることが重要です。また膜に存在する脂質の種類によって信号物質プロスタグランジンの合成比率も変わることがわかってきました。そこでますます脂質の種類が注目されるようになったのです。次回は必須脂肪酸とプロスタグランジンについて話を進めようと思います。

病気はなぜ起こる?
-ホルモンの病気①-

 「なんとなく元気がない、疲れやすい、寒がりになった、体重が増えた、脚が腫れぼったい、便秘がひどい、記憶力や集中力がなくなった」こんな症状に覚えはありませんか?
ホルモンの病気の症状は漠然としていたり、ゆっくりと発症したりすることもあり、なかなか本人も周囲の人も気づかないことがあります。
ホルモンが低下している場合は、ホルモンを補うと様々な症状が改善するので「診断する」ことはとても大切です。研修医時代に内分泌(ホルモン)専門の先生が「電車でホルモンの病気らしい人を見かけると声をかけて治してあげたくなる」と言っていたのを思い出します。
ホルモンは「体の機能を調節するために情報を伝達する物質」です。甲状腺ホルモンは主に全身のエネルギー代謝を調節しているので不足により疲労感や寒がりなどの症状が出ます。生命維持に重要なホルモンは出来るだけ一定に保たれるようにコントロールされています。
 脳にある視床下部から出るTRHという物質は脳のすぐ下にある下垂体のTSHというホルモンを増やし、TSHは甲状腺ホルモン分泌を刺激します。甲状腺ホルモンが減ると視床下部や下垂体に「不足」という情報が与えられTRHTSHが増えて甲状腺ホルモンがちょうどよい量まで増えます。ホルモンが過剰の時はTRHTSHが抑えられて甲状腺ホルモンの分泌が減ります。フィードバック機構という調節方法です。



甲状腺に対する自己抗体が出来たり炎症が起こって細胞が壊れたりするとフィードバック機構のコントロールから外れてホルモン過剰症や低下症が起こります。もしかしたら?と思ったらぜひご相談を!疑うことから診断が始まります。