2013年3月11日

自己免疫疾患 ③
-免疫バランスと腸内細菌-


免疫の司令塔だった胸腺は成人になると委縮し、腸管免疫に司令塔が移っていきます。そして攻撃の司令官(ヘルパーT細胞)や免疫を制御する制御性T細胞(Treg)が連携をとりながら全身の免疫をコントロールしています。

免疫が必要な時に必要なだけ働くためには制御と攻撃のバランスが重要となります。例えば、寄生虫が感染したときやアレルギー物質が入ってきたときに主に働くヘルパーT細胞のTh2の力が必要以上に強くなるとアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などのアレルギー疾患になりやすくなります。Th1のバランスが過度に強くなると細胞性の免疫が活性化されて関節リウマチなど自己免疫疾患の発症につながるのです。またTh17細胞の勢いが極端に強くなると潰瘍性大腸炎の発症につながると考えられています。

腸管免疫系は、腸内細菌の影響を大きく受けます。腸内細菌が送るシグナルがヘルパーT細胞を活性化しバランスを変えるからです。病原細菌の部品や病原ウイルスの遺伝子Toll様受容体を通して信号を伝え攻撃を活性化するT細胞を刺激します。

 

病原細菌やウイルスの部品の一部がたまたま生体の組織と似ている(分子相同性)と誤って自分の組織を攻撃する原因となります。例えばリウマチ熱は溶連菌と心筋の一部が似ていることから溶連菌の感染をきっかけに心筋炎や心内膜炎を起こしてしまう病気です。感染を契機に神経に炎症が起こるギランバレー症候群も細菌の糖鎖と神経の糖脂質が似た構造をもっているために起こると考えられています()

 

以前は免疫全般を抑える薬しかなかったのですが最近は個々の免疫細胞を制御できるような薬が次々と開発されています。そして病気の予防のための腸管免疫の役割に脚光が集まっています。

腸で教育を受けた免疫細胞は全身に移動してそれぞれの場所での免疫活動に従事した後また腸管に戻ってきます。これまでただの消化吸収器官としてしか認識されていなかった腸管は全身の免疫にも影響を与える大切な場所なのです。

暮らしに役立つ栄養療法
-アルブミンとむくみ-


今回はちょっと趣向を変えてむくみとアルブミンというたんぱく質との関係について説明しようと思います。腎臓や心臓の病気でなくても夕方になると靴がきついとか、靴下の跡がつくとか、手の指がパンパンに腫れるなどの症状を多くの方が経験されたことがあるのではないでしょうか?検査しても特に病気ではないと言われた時に注目したいのが血液中のたんぱく質量!特に肝臓が合成するアルブミンです。毛細血管は小さな物質や液体が自由に通るように隙間があります。理科で習ったことのある半透膜の性質です。

小さな分子は血管の中と外で同じ濃度になれますが、移動できない物質は濃度差が生じます。水は濃度が同じになるように濃度が濃いほうに移動します。これがたんぱく質の作り出す膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ)です。アルブミンはマイナス電荷を帯びているのでナトリウムイオンを引き付けやすい性質もあり、また分子数が多いので大きな浸透圧が生じます。

 

むくみがあっても血管内の水分は減っていることが多いので利尿剤などを使って水分を尿に出そうとすると血管はますます脱水・濃縮状態になってしまいます。本質的な改善にはアルブミンの合成を増やすことが大切です。肝臓でのたんぱく合成を助けるためたんぱく質やビタミンB群をしっかり摂る必要があります。むくみ対策も食事からですね。

ビタミンKの働き再発見!
-ビタミンKは何をしているの?-


ビタミンKは血液凝固に必要な因子として1929年にデンマークのH.Damによって発見された脂溶性ビタミンの一つです。新生児の頭蓋内出血を防ぐために生まれて24時間以内と5-6日目、1ヶ月検診の際にビタミンK2シロップを服用することが推奨されています。

ワーファリンという薬を飲んでいる方は納豆などビタミンKを含む食品を避けましょうと指導されることがあります。ワーファリンはビタミンKの働きをブロックし肝臓で血液凝固因子が作られるのを抑えることで血液を固まりにくくしている薬です。
 
 

ビタミンKの働きはたんぱく質の中の特定のグルタミン酸をγカルボキシグルタミン酸に変えて機能を持った成熟たんぱく質を作ることです。ビタミンKの作用を受けるたんぱく質には血液の凝固に関係する物質のほかに凝固を抑制する因子(プロテインCやプロテインSど)、骨粗鬆症の予防に関わるオステオカルシン、血管や神経、心臓弁などに存在し動脈の石灰化を防止するマトリックスGla蛋白質などがあることが分かってきました。つまりビタミンKは凝固系だけでなく骨や血管、神経などにも影響する大切なビタミンなのです。骨粗鬆症の時に検査をする未成熟オステオカルシン(UCOC)はビタミンK不足によってγカルボキシグルタミン酸に変わらなかったオステオカルシンのことでビタミンK欠乏の推定や効果判定に使用されています。肝臓の腫瘍マーカーとして知られるPIVKA-IIも変換されなかった凝固因子です。
 
 

最新の研究ではビタミンKに脳内の酸化を予防したり遺伝子に働きかけて癌を抑制したりするなど新しい可能性が示唆されています。古く発見されたビタミンにも新しい光が当たっているようです。

次回はビタミンKの種類やビタミンKを含む食品などについてもう少し見てみましょう。