2010年12月1日

食事療法の嘘?本当?
-たんぱく質は過剰か?不足か?-



分子整合栄養医学では、たんぱく質というものを大変重視しています。なぜなら体の構成成分や代謝酵素、ホルモンや伝達物質の多くはたんぱく質またはアミノ酸から出来ているからです。ビタミン、ミネラルがいくら多く存在しても、本体がなければ十分機能を発揮することは出来ません。

体の成分はある一定の速度で入れ替わっています。ほとんどのたんぱく質はアミノ酸という形で再利用されていますが、再利用率は100%ではありません。一部は変性して捨てられてしまうからです。変性率などをもとに割り出したたんぱく質の一日必要量は、体重の1000分の1、つまり体重1kgあたり1gです。また成長期や妊婦さんのように、より多くのたんぱく質を合成する場合や変性が起こりやすい病気を持った人、現在栄養状態の悪い方は約1.2から1.5倍のたんぱく質が必要になります。

一般に食べたたんぱく質のアミノ酸組成は、体に必要とされるアミノ酸組成と全く同じではありません。食べ物のアミノ酸バランスが悪いと利用効率が悪くなります。そこで「アミノ酸評点パターン」や消化吸収率を加味した「修正アミノ酸スコア」を用いてたんぱく食品の利用効率を評価しています。点数が高いものには鶏卵、肉、魚などが並び、大豆はリジンやメチオニンといった必須アミノ酸が少ないため点数が低めになります。

たんぱく質食品はたんぱく質だけで出来ているわけではありませんので、体重60kgの人が60gのたんぱく質食品を食べれば十分ということにはなりません。概算すると、鶏卵だと4.8個、牛ロースだと400g程度、大豆であれば450g程度になります。これだけの量を1日に食べることは不可能ではありませんが、一緒に入ってくる脂肪やカロリーもそれなりに多くなりますので、消費カロリーを増やしたり、他に摂取する油脂や穀物の種類や量を調整したり、プロテインパウダーなどのアミノ酸調整たんぱく質を併用したりするなどの工夫が必要になります。

腎臓が悪い人にはたんぱく制限が必要であるという考え方があります。腎臓は不要物の濾過・排泄を行うとともに、小さな分子に関しては再吸収を通して体内量を調節しています。たんぱく制限を推奨する人は、「排泄物の尿素窒素が増えると腎臓の細動脈の血圧が高まる」、「透析が必要なほど排泄率が下がった人では老廃物が早くたまる」ことを理由に挙げています。一方で「たんぱく質制限をした時(0.8g/kg)としない時(1.2g/kg)では腎機能の悪化の程度に差がなかった」という論文もあります。腎臓病の原因も状態も様々である以上、対応は慎重かつ個別に考慮することが必要ですから、ここでは両方の考え方があるということをお伝えするにとどめておきたいと思います。

ビタミンCの話③
-再生のネットワーク-


体が活動すると必ず活性酸素が生まれます。活性酸素は組織を傷つける作用を持っているので、出来た場所ですみやかに消去できるように様々な抗酸化機構が発達しています。抗酸化機構を助ける抗酸化物質には、いくつかの住み分けがあります。たとえば、脂溶性ビタミンであるビタミンAやビタミンEは中性脂肪やコレステロールと一緒にリポ蛋白の中心部に包まれて組織に運ばれ、ビタミンAは比較的酸素濃度の低い脂溶性の部分に、ビタミンEは酸素濃度の高い細胞膜などに分布して抗酸化作用を発揮します。

ビタミンCは水溶性ビタミンの代表で、特に細胞内で効力を発揮しています。

(細胞外や血液中の最も重要な抗酸化物質は尿酸です! ご存知でしたか?)

抗酸化物質というのは、相手に電子を渡して無毒化するときに自分自身は酸化されます。ビタミンCは酸化型、またはラジカルの状態でも大変安定していて傷害性がないので有能な抗酸化物質なのですが、それでも再び効力を発揮するためには元の形(還元型)に戻る必要があります。再生の方法には次のようなものがあります。

 

    ナイアシンとビタミンBを使って還元型に戻る

    一分子は還元されもう一分子は酸化されてデヒドロアスコルビン酸になる

    デヒドロアスコルビン酸はグルタチオンを利用して還元型になる

 

再生の時には、上図のように他の抗酸化物質を利用します。互いにネットワークを作って再生しあい、すべての抗酸化物質が有効活用できるように支えあっているのです。

 




またデヒドロアスコルビン酸は、ぶどう糖と同じ経路を通って細胞内に取り込まれ還元型に変わります。糖尿病などで高血糖の時にはデヒドロアスコルビン酸が再生されないので、活性酸素の消去がうまくいきません。糖尿病とビタミンCの問題は大変重要ですので、次回にまた説明しましょう

ホメオスターシスの破綻と回復への道筋


分子整合栄養医学の考えに立つと、通常の食事をしているほとんどの人は潜在的に何らかの栄養欠乏を持っていることになります。栄養摂取を増やせばさらに健康レベルはあがります。ところが症状と栄養欠乏の程度がいつも一致するわけではありません。また、欠乏が進む時期と発症の時期が一致しないこともあります。皆さんも強いストレスを受けたり消耗する出来事が起こったりした時に、その最中には症状が出なかったのに落ち着いてしばらくたってから具合が悪くなったという経験はありませんか。

大きな災害に合った、精神的にショックな出来事に見舞われた、張り切るような大きなプロジェクトを任された、など全く違った性質のものでも、体は同じような「ストレス」と感じます。ストレスとは生体内に影響を及ぼすような環境の変化のことです。環境の変化に対し、生体は一定のよい状態に保とうとします(これをホメオスターシス生体内恒常性と呼んでいます)。ストレスが大きいほどホメオスターシスの維持にはたくさんのエネルギーと物質を必要とします。栄養欠乏が限界に近い状態であっても、材料がある限り体はホメオスターシスの維持をしようと頑張ります。そしてついに「ホメオスターシスの破綻」が起こったとき、材料はほとんど枯渇しています。この時点で初めて強い自覚症状があらわれます。

材料が枯渇してしまった場合、回復にはかなり時間がかかります。たっぷりと栄養素を補給し、ある程度の蓄えが出来てようやく活動を少しずつ取り戻していきます。またストレスが多い時期にはたくさんの活性酸素が出るので、傷ついた組織の修復をする必要があることも、時間がかかる理由かもしれません。

一般に欠乏状態が長年続いた時は治りが遅く、回復に必要な栄養素の量も多くなります。体への蓄積の程度や、長年かけて損なわれた組織の修復などが関係しているようです。したがって欠乏診断で一見数値が同じように見えても治り方の速さは個人差があり、それぞれが経てきた歴史によっても治り方が変わります。回復が遅いからといって焦ってはいけません。

とは言え、出来るだけ早く回復したいと思うのが人情です。早い回復には日頃の備えが一番です。まずホメオスターシスの破綻のきざしに早く気付くこと、ストレスがかかったと思ったらいつもより多く栄養素を摂取すること、限界まで頑張らずに早めに休養をとることです。

また、胎児期、幼児期からの長期の欠病症を予防するためには若い方や妊婦さん、子育てにかかわる多くの人へ栄養の重要性を啓蒙することが大切です。病気になる前にいかに健康レベルを上げることが出来るか、日頃の心がけが問われているのです。

 

「病気の治療薬よりも、それを防ぐ方法を私は探す」

ルイ・パスツール