2011年1月10日

食事療法の嘘?本当?
-糖と炭水化物の摂り方-


 カロリー制限を基にした栄養指導(アメリカの糖尿病学会など)では、体重や活動度から総カロリーを計算しエネルギーにおける比率を炭水化物40%、脂質30%、たんぱく質30%にしましょうと言っています。分子整合栄養医学ではたんぱく質などの必須栄養素、必須脂肪酸の必要量に対する考え方が根本的に違いますので、脂質や炭水化物の摂取量についても異なった考え方を持っています。

 ご存知の方も多いと思いますが、私たちのクリニックでは糖尿病と機能性低血糖症の方に対し「糖質制限食」を勧めています。「白米や精製小麦を使ったパン、麺類と糖分を極力摂らない食事療法」のことです。膵臓を保護し血糖値の変動を抑え、たんぱく質など必須栄養素をたくさん摂る方法としてはかなり優れています。内臓脂肪型肥満・高血圧・高脂血症・高尿酸血症の方にも大変効果があります。

 ただし「分子整合栄養医学」ではすべての人に対し「糖や炭水化物を摂らないほうがよい」と言っているわけではありません。ライナス・ポーリングと同時代に生き分子栄養学の提唱者である三石巌先生はご自身が糖尿病であるにも関わらず糖をあまり制限していなかったと著書の中で語っています。高ビタミン、高ミネラル、高たんぱくにより体の機能や再生力を高め活性酸素を除去することに重点を置いていました。

 「プロテイン・カロリー・マルニュートリッション」という言葉があります。体に必要なたんぱく質とカロリーが両方不足している状態のことです。例えば癌を持っている方や激しい運動をするスポーツ選手などは日々の生活に多くのカロリーを必要とします。カロリーが不足すると生体は脂肪だけでなく体のたんぱく質を分解してエネルギーに変えてしまいます。たんぱく異化(壊れる)>同化(合成する)の状態は大変に都合が悪いのです。炭水化物とたんぱく質(アミノ酸)を同時に摂ると体のたんぱく質合成能力が高まり大変調子のよい状態を実現できます。この場合飲み物の糖分を摂る必要はなく、米飯などで十分です。玄米がよいかは消化吸収の面で意見が分かれているところです。

 糖質制限をする際、炭水化物を食べないと脳が必要とする糖が足りなくなるのではないかと心配される方がいるでしょう。常に働き続ける脳や心筋は脂肪分解物のケトン体をエネルギー源として利用できます。それに加えて血糖値を一定に保つ機構がかなり発達しています。血糖を下げるホルモンはインスリン一つであるのに対し、血糖を上げるホルモンは多数あります。肝臓等でアミノ酸からぶどう糖を作り出すこともでき血糖値が下がりすぎないようにしています。血糖値が一定であれば血流が途絶えない限り脳に糖が安定して供給されます。
 様々な学説やダイエット法があり迷う方もいるでしょう。最終的に健康状態が良くなるように食事法を修正することが最も大切です。そのための評価方法を皆さんに学んでいただきたいと思っています。

ビタミンCの話④
-ビタミンCと糖尿病-


今回は、ビタミンCと糖尿病の話をしたいと思います。

ビタミンC細胞内で働く最も重要な水溶性の抗酸化ビタミンです。血液中のビタミンCは速やかに各細胞に汲み上げられ、ビタミンC需要が高い細胞ほどビタミンC濃度は高くなっています。したがって、ビタミンCを摂りすぎても尿に出るだけだから無駄だという指摘は当てはまりません。「これ以上細胞が汲み上げられない」段階になって初めて過剰の可能性が出てきます。その場合は吸収されずに下痢になります。また血液中、尿中、消化管内でもビタミンCは効力を発揮しますから、余剰にしてあふれさせておくのがよいのです。

さて、糖尿病では血液中のぶどう糖濃度が高いため、たんぱく質とぶどう糖が結びついたアマドリ化合物が出来やすくなっています。(糖尿病の指標となるHbA1cやグリコアルブミンはそれぞれヘモグロビンとアルブミンのアマドリ化合物の割合を測っています)。アマドリ化合物がさらに反応して出来る糖化最終産物(AGE’s)は活性酸素やラジカルを発生しやすいので、糖尿病により血糖コントロールが悪い状態ではそもそも活性酸素の発生率が高くなっています(血糖値が200を超えると活性酸素の発生が急激に増えることが知られています)。消去されずに残った活性酸素は血管障害や組織障害の原因になります。血液中のビタミンCは、抗酸化作用を発揮した結果デヒドロアスコルビン酸という酸化型に変わります。抗酸化作用のある還元型に再生するには、いったん細胞内に入り化学反応を受ける必要があります。

ビタミンCが細胞内に入る時には、ぶどう糖と共通の糖輸送体を使います。高血糖=血液中のぶどう糖が多いことですから、同じ輸送体で競争すると高血糖の時にはビタミンCよりぶどう糖が優先的に運ばれ、ビタミンCは細胞内に入ることが出来ません。測定データによると正常人の血液中のデヒドロアスコルビン酸はほぼゼロなのに対し、糖尿病患者ではデヒドロアスコルビン酸比率がかなり高くなっていました。

細胞内に入ったデヒドロアスコルビン酸がビタミンCに再生(還元)されるためには、NADHNADPH、グルタチオンなどの還元剤と還元酵素が必要です。糖尿病は複合的な代謝異常ですからNADHNADPH、グルタチオンも圧倒的に不足しています。

糖尿病の人の感染症(化膿した傷や肺炎など)が治りにくいのは、白血球中のビタミンC濃度が低いことと関係があります。細胞内で活性酸素除去能力が低下する結果、活性酸素により遺伝子が傷つき悪性腫瘍の確率が高まります。血管合併症も活性酸素に関係しています。

血糖値をよい状態に保つことに加えビタミンCやたんぱく質、ビタミンB群、ミネラルをしっかり摂るとこれらの合併症や余病を防ぐことが出来、糖尿病であっても幸せに暮らすことが出来るのです。

クルードなプレカーサー


分子整合栄養医学を学ぶとクルードなプレカーサーという言葉が何度も出てきます。「クルード」というのは「天然の、ありのままの、加工していない」という意味で「プレカーサー」は「前駆体=活性化される前の形」という意味です。

 単に天然由来といっても効果や安全性は様々です。真の天然物とは口に入る段階で含まれる栄養素が天然型=体が利用できる形であることが条件です。もともと天然物を使っていても保存性を良くするために誘導体をつけたり加工したりすることによって、出来上がったものが異物として排泄されたり効果が弱まったりすることがあります。合成ビタミンEはd体、l体という光学異性体が半分ずつ混ざっていて、体が利用できるのはd体のみなので半分は「異物」として捨てられます。また、薬のビタミンEは保存性を良くするために―OH基をエステル化しているので抗酸化作用は大変弱くなっています。一方、合成アスコルビン酸(ビタミンC)は天然と同じ形です。

 クルードには有効成分を抽出せずもとのままの配合で天然に存在するままの物質をすべて含むという意味も込められています。有効かどうかわからないもの、働きがよくわかっていないものも含んでいることに意義があります。

 クルードな成分では活性化の量やタイミングを自在に調節できます。たとえばビタミンAの代謝産物であるall-transレチノイン酸という物質があります。核内の受容体に結合して特定の遺伝子の発現を制御する重要な物質で、治療薬としても使われています。このレチノイン酸薬と複合的なビタミンA とどちらがよいかを考えてみましょう。レチノイン酸薬は「有効成分を抽出した活性型物質誘導体」、ビタミンAは「クルードなプレカーサー」です。まず薬はすでに活性化された形としてつくられます。すぐに分解しては効果がありませんから誘導体にしてある程度壊れにくくします。その結果、核に入る濃度は投与量に依存し効力を持つ時間が長くなります。それに対しクルードなビタミンAはそのままでは効力を持っていません(プレカーサー)。貯蔵細胞に待機し必要に応じて輸送たんぱく質に運び出され細胞内で活性化されて細胞内、核内にある受容体に結合します。このように多くのステップを経ることで核に作用する量や作用する時間がかなり厳密に調節されています。ビタミンAに限らず生体内の物質は常に制御されていて使う時、使う場所で必要なだけ活性化されることが安全性を保証しているのです。

 未知の物質を排除しないという意義もあります。我々にとっては未知でも生体は使い方を知っていて人知れず大切な働きをしているかも知れません。生体はまだまだ人智を超えた神秘を秘めています。クルードなプレカーサーを多めに摂って体に任せることが栄養医学の奥義なのです。

 

 

「すぐれた師のそばで働くという特権は、そうざらに授かるものではない」

アレキサンダー・フレミング