2012年5月20日

サプリメント小話
-グルタチオン-


活性酸素を消去する頼もしい味方があります。グルタチオンペルオキシダーゼです。グルタチオンペルオキシダーゼは活性酸素の消去反応の途中で出来る過酸化水素(H2O2)や過酸化した脂質を無害な物質に変える働きを持っています。グルタチオンペルオキシダーゼの反応に必要な物質がセレンとグルタチオンです。

グルタチオンは下図のような比較的単純な構造をしており体内で合成出来ます。

 



材料はグルタミン酸、システイン、グリシンというアミノ酸です。

グルタチオンは

 活性酸素の消去

 グルタチオン縫合による薬物排泄

 酵素活性の調節

 代謝の酵素

などの役割を持っており、ビタミンCと協調して放射線防護にも効果があります。

グルタチオンが不足している状況はγGTPという数値で推定できます。

たくさんお酒を飲む方は血液検査でγGTPが高いことが多いですね。飲酒は全くしない方でもお薬をたくさん飲んでいるとγGTPは高めになります。このγGTPはグルタチオンを代謝するための酵素で必要に応じて合成量が増えます。γGTPが高い時はグルタチオンの需要が増えていると考えてサプリメントで補いましょう。また比較的年齢の高い方でγGTPが極端に低い場合も要注意です。グルタチオン合成量が不足している場合があります。グルタチオンを摂取することで不足しがちなシステインを補給することもできます。

反応で使用されたグルタチオン(酸化型)を元(還元型)に戻すのはグルタチオン還元酵素という酵素です。この酵素はビタミンB2を補酵素としているのでビタミンB2が不足するとグルタチオンの働きが弱くなり脂質の過酸化が起こります。

グルタチオンは年齢とともに合成量が減ります。グルタチオン、セレン、ビタミンB2の摂取を工夫して活性酸素が増えないようにしましょう。

カルシウムの話②
-カルシウムの調節機構-


副甲状腺・骨・腸・腎臓・皮膚のコラボレーション

地上で生活する生物にとって骨の形成維持は体を支える重要な戦略です。たとえば宇宙のような無重力のところで生活すると骨密度はどんどん減少していきます。先日167日間という宇宙滞在最長記録を携えて帰還した宇宙飛行士の古川聡さんは、トレードマークの笑顔は絶やしませんでしたが帰還直後は立ったり歩いたり出来なかったそうです(ただし骨だけでなく平衡感覚の問題もあるようです)。

このように重力に対抗するのに大事な骨ですが「血液中のカルシウムを維持するための骨」という側面を説明してみようと思います。

カルシウムは細胞中に信号を伝えたり筋肉や線維を動かしたりするのに重要な働きをしています。そのためには血液中と細胞内の濃度が厳密にコントロールされている必要があります。

血液中のカルシウム濃度が低下すると副甲状腺からPTH(副甲状腺ホルモン)が分泌され骨と腎臓に働きかけます。PTHはビタミンDを活性型に変える指令も出します。ビタミンDの活性化には皮膚の紫外線、肝臓での酵素反応、腎臓での酵素反応が必要です。ビタミンDは小腸や腎臓、骨に働きかけ血液中のカルシウムが正常に戻ります。

 


ところがカルシウム欠乏が続くと困ったことが起こります。PTHの働きが持続し細胞にあるカルシウムチャネルが開きっぱなしになる結果、細胞内のカルシウム濃度が上昇してしまうのです。通常110000に保たれていた濃度差が1010000になると信号伝達が遅れます。たとえば野球選手がいくら頑張って筋肉を鍛えてもカルシウムが不足すると反応が鈍くなりバットを振り遅れる事態となります。

血糖上昇を感知してインスリンを出す仕組みにもカルシウムが関与しています。糖尿病ではインスリン分泌が遅れる減少が観察されます。尿に糖が出るとカルシウムの尿中排泄が増えカルシウム不足が起こりやすくなります。カルシウム不足インスリン分泌の遅れに拍車をかけます。血液中のカルシウム濃度は下がりにくくなかなかカルシウム不足に気付きません。気づいた時には骨粗鬆症がかなり進行してしまっています。

このようにカルシウムは自律神経や血圧、ホルモンなどにも深く関係しています。次回はカルシウムとペアで働くマグネシウムについてぜひお話してみたいと思います。

 

病気はなぜ起こる?
-活性酸素と肝臓病について-


活性酸素と動脈硬化、活性酸素と発がんについてはだいぶ知られるようになってきましたが、活性酸素と肝臓病の関連はあまり知られていないようです。

エネルギー産生を行うミトコンドリアは活性酸素の発生が大変多い場所です。ミトコンドリアでは酸素を使ってATP(エネルギー)を作る反応が行われており、ATPを作る過程で日常的に活性酸素が発生しています。肝臓には細胞1個あたり1000から2000個と通常の細胞よりもはるかに多くのミトコンドリアが存在しているので活性酸素の危険性も高いのです。

 


通常は活性酸素を消去するシステムが働いて活性酸素の害は最小限に抑えられています。ところが何らかの原因で消去システムが減少したり活性酸素の発生が増えたりすると細胞に傷害が起こります。

肝臓のペルオキシソームという場所ではアルコールや薬物の解毒も行われこの際にも活性酸素が発生します。また脂肪を分解するβ酸化の際にも活性酸素が発生します。肝臓の細胞は活性酸素の危険に常にさらされていると言えるでしょう。

 細胞や小器官の膜は脂肪酸とたんぱく質で出来ています。活性酸素により脂肪酸が酸化して脂肪酸ラジカルになります。脂肪酸ラジカルは隣の膜を攻撃し連鎖反応が広がっていきます。細胞膜が壊れると肝細胞中の酵素が漏れ出して血液中の濃度が上昇します。検査で肝臓の数値が悪い(肝酵素が上昇している)と言われた方は肝細胞が壊れている訳ですから放置すると大変なことになります。

活性酸素が増える時には肝臓の正常な働きが低下しエネルギー代謝がどこかで滞っています。代謝酵素の材料を摂りアルコール摂取を減らし内臓脂肪を減らしましょう。

日本人に多いウイルス性肝炎のうちC型肝炎ではミトコンドリアでのエネルギー代謝が障害されています。その結果活性酸素が増えて肝炎の悪化や脂肪肝、肝癌の発生に関与しているようです。ともすればウイルス治療に焦点が当てられているウイルス性肝炎ですが、ウイルス感染が持続していても代謝の改善や活性酸素の消去という治療の道が開かれているのです。