2012年10月1日

サプリメント小話
-γリノレン酸とプロスタグランジン製剤-


プロスタグランジンの話をもう少し続けましょう。プロスタグランジンの作用を利用した薬(プロスタグランジン製剤)はかなり広く使われています。例えば、胃薬。胃粘膜保護剤に分類されている胃薬の多くはプロスタグランジンE1E2の働きを強めることによって胃酸の分泌を抑えたり胃粘膜の保護をしたりしています。また、プロスタグランジンE1の薬は血管を広げる作用や血小板の凝集を抑えたりする作用があるため、脚や腕の動脈が細くなっている病気や肺動脈高血圧症などに用いられています。

プロスタグランジン製剤は一般には副作用が少ないのですが、たまに、ほてりや頭痛がひどくて続けられないという人がいます。そのような方はγリノレン酸を服用すると副作用を起こさずに効果を出すことが出来ます。

体が作るプロスタグランジンと薬との最も大きな違いは、分解される速さです。薬は全身に届くこと、一定時間以上分解されないことを条件として開発されるので、一か所だけに効かせたい場合、余計な場所にまで効いてしまうという欠点があります。たとえば脚の先のほうの動脈が細くなっている場合、顔や頭に行く血管まで広げてしまうために頭痛やほてりが起こることがあります。

体が作るプロスタグランジンは、出来た場所で効果を示した後あっという間に消えてしまいます。少なくとも肺を通るときには全部分解されて全身には行かないようになっているようです。そこでプロスタグランジンE1の材料であるγリノレン酸を増やして必要な場所で必要な量のプロスタグランジンE1を合成させようという作戦です。γリノレン酸は月見草油、シソ油などに多く含まれ、以前は月見草油そのものを治療に使っていましたが現在はγリノレン酸のサプリメントが出来ています。

効果としては、血管を広げる作用、胃酸の分泌を適度に抑える作用、血栓を予防する作用などのほか炎症を抑える作用やヒスタミンの放出を減らしてアレルギー症状を和らげる働きもあります。また、月経前症候群にも効果があると報告されています。

効果があるものだけを抽出したり働きを強めたものは効果が良さそうではありますが、体のコントロールが効かないため思いがけない副作用も出ます。そのため栄養医学では「クルードなプレカーサー(精製していない材料)」を入れることを重視しています。γリノレン酸とプロスタグランジン製剤はそのよい例と言えるでしょう。

暮らしに役立つ栄養療法
-糖質制限食における脂肪の摂り方③-


今回は必須脂肪酸とプロスタグランジンの話です。

魚の脂が体に良い、とかEPADHAは血液をサラサラにする、とか言いますね。サラサラという表現が適切かどうかはわかりませんが、EPA(エイコサペンタエン酸)の割合を増やすと血管や血球の表面の性質が変わります。

脂質が単なるしきり(・・・)と考えられていたのは昔の話で、今は細胞膜の脂質がダイナミックな働きを担っていることが次々わかっています。中でも脂質からプロスタグランジンなどのホルモン様物質が作り出されていることは驚きの発見でした。
 

その中の一つがトロンボキサンA2TXA2)という物質です。細胞膜に存在するアラキドン酸から作られ、血小板を凝集させたり血管を収縮させたり気道を収縮させたりします。それに対抗する物質がやはりアラキドン酸から作られるプロスタグランジンI2PGI2)です。トロンボキサンA2は主に血小板で、プロスタグランジンI2は主に血管の壁の細胞(内皮細胞)で作られます。両方が釣り合っていれば、出血もせず血栓も出来ずによい状態が保たれるのですが、内皮細胞が傷ついたりしてプロスタグランジンI2の分泌が減ると血栓が出来やすくなります。

血小板の膜にEPAが多いと、トロンボキサンA2の代わりにトロンボキサンA3TXA3)が出来ます。TXA3には血小板凝集作用がほとんどないため、内皮細胞が傷ついても血栓が出来にくいという仕組みです。
 

種子などから油を精製する技術が進化した結果、食品以外から植物油を摂る量が増えてしまってリノール酸やアラキドン酸の摂取量に比べてEPADHAの摂取比率が減ってしまっています。アラキドン酸から出来るプロスタグランジン類は炎症やアレルギー反応にも関係しているので摂取比率を変えて拮抗関係を正常化することが様々な病気の予防に役立ちます。

病気はなぜ起こる?
-ホルモンの病気②-


前回はホルモンのフィードバック機構について説明しました。今回はホルモンの受け手=受容体の話です。

ホルモンの指令が伝わるためには受け手である受容体が必要です。そのホルモンに対する受容体のない細胞はホルモンが来ても何も起きません。また受容体には少しずつ違う種類があって細胞によって反応を微妙に調節しています。

ホルモンには細胞膜を通ることの出来るものと細胞膜を通れないものがあります。通れるホルモンの受容体は細胞の中や核(DNAのあるところ)の中にあり、信号を受けた後の反応が速いのが特徴です。細胞膜を通れないホルモンに対しては細胞膜で受容体が待ち構えています。ホルモンが受容体に結合すると受容体に変化が起こりそこから細胞内へと次々反応が伝わっていきます。反応の途中で信号の増幅や抑制、枝分かれが起こり、関連した複数の反応が連携して起こるようになっています。

受容体受容体が異常を起こす原因には、

  遺伝的な異常

  受容体に対する抗体などが出来る

  活性酸素による変形

などがあります。の治療は難しいですが活性酸素は抗酸化ビタミンや抗酸化物質で防ぐことが出来ます。

 


受容体は正常でも栄養素の欠乏によって細胞内の信号伝達に支障が出ることがあります。たとえばカルシウムの濃度変化は信号のスイッチのオンとオフに密接にかかわっているので、カルシウムやマグネシウムが欠乏すると細胞内の濃度をきちんとコントロールすることが出来なくなりオンとオフに乱れや遅れが生じます。ポンと叩くとパッと反応するはずが、ポンと叩いてしばらくたって「えーっ なーにー」という感じです。

そこで受容体に強く結合する薬を使うと、受容体をポンと叩く代わりにバシバシバシっと叩き続ける(?)のでさすがの受容体も反応するのですが、これがずっと続くとどうでしょう。細胞も疲れて反応しなくなります。すべてではありませんがいくつかの薬は長く続けると効かなくなることもあります。薬は一時的なものと考え体本来の働きを取り戻すように努力することは大切ですね。