2013年2月1日

ビタミンDの働き再発見!
-遺伝子を制御するビタミンD-




ホルモンには二種類(細胞膜を通るものと細胞膜を通れないもの)があるという話を覚えていますか?副腎皮質ホルモンや性ホルモン、甲状腺ホルモンなどは細胞膜を簡単に通り抜け、遺伝子が収納されている核内の受容体と結合して直接遺伝子に働きかけます。

ビタミンAやビタミンDも核内の受容体に結合して遺伝子に働きかけることが出来ます。脂溶性ビタミンがホルモンのような働きをすることはビタミンの概念を変える大きな発見でした!
 
ビタミンDの古典的な役割は

    腸管でのカルシウムマグネシウム、リン吸収の促進。

    腎臓からのカルシウム喪失抑制と、副甲状腺を介した、血中カルシウム濃度の維持。

    骨形成や骨のカルシウム、マグネシウムの吸収の円滑化。

です。そこに最近分かった機能のリストが加わりました。

   細胞分化誘導・発がん抑制

   免疫担当細胞の調整(花粉症・アレルギー・自己免疫疾患の改善)

   血圧上昇ホルモンの分泌調整(レニンを抑制)

骨に関しても単にカルシウムの吸収をよくするだけではなく骨のリモデリングに関わる細胞を直接活性化して骨を強化する働きがあることもわかりました。

そこで新しく発見された機能を十分果たすために必要なビタミンDの量はどのくらいか?という問題が浮上します。骨が大丈夫でも細胞の分化やアレルギー調節には足りていない可能性があります。活性化前段階の25(OH)ビタミンD濃度を測った研究からは日本人の70-80%がビタミンD不足だったそうです(なお25(OH)ビタミンD濃度は健康保険が使用できないため特殊な自費検査の扱いになります)。

過剰な免疫反応を抑える働きがあるビタミンDは、最近増えてきたアレルギー疾患の救世主となるかも知れません。また昼夜逆転や室内の仕事で紫外線に当たる時間が極端に少ない方はぜひライフスタイルを見直せるとよいですね(紫外線とビタミンDの関係は前号をご覧ください。


暮らしに役立つ栄養療法
-遅延型食物アレルギーとLGS(腸管壁浸漏症候群)③-



遅延型食物アレルギーとLGSシリーズもいよいよ最終段階に入ってきました。腸の消化吸収機構、バリア機構、腸内細菌の改善が大切であることがお分かりいただけたと思います。今回は具体的な方法について考えましょう。自分に合ったものを選びいくつかの方法を組み合わせることが大切です。

    腸粘膜やバリア機構を改善する栄養素をしっかり摂ること

    腸内細菌叢を改善すること

    カンジダを減らす効果のある物質を摂取し、増やす効果のある食品を減らすこと

    アレルギー反応のある食品の摂取をしばらくの間やめること

腸粘膜細胞は入れ替わりの激しい組織なので、短期間の栄養欠乏でも影響を強く受けます。特にたんぱく質不足の影響は深刻です。というのも腸の粘膜はグルタミン(アミノ酸の1種)を栄養源として使っているからです。グルタミンは腸粘膜とリンパ球の栄養源です。余談ですがスポーツ選手は激しい合宿やトレーニングによってグルタミンを消費する(筋肉に取り込んでしまう)ので、大会前に下痢をしたり風邪をひくのを予防したければ グルタミンをたっぷり摂るとよいでしょう。

IgA抗体産生、ムチン分泌、腸管免疫などにはビタミンAが重要です。細胞分裂のための亜鉛、エネルギー産生のためのビタミンB群など他にも大切な栄養素がたくさんあります。

腸内細菌叢の改善には、善玉菌(アシドフィルス菌やビフィズス菌)と善玉菌を定着させ増やす物質(食物繊維やオリゴ糖)を摂取します。せっかく善玉菌を摂っても定着しなければ短期間で減ってしまうため善玉菌の好む環境を整えることが重要です。カンジダは糖分が大好きなので糖分や精製炭水化物の摂取は出来る限り減らしましょう。カフェインやイーストを含んだ食品、アルコールや人工甘味料も減らしましょう。

カンジダを減らす薬やサプリメントもありますが、カンジダは常在菌なのでやめるとまた増殖してしまいなかなか根本治療には成りません。カンジダが急に増えた際などに上手に利用し良い菌の割合を増やす治療を併用することが大切です。

食物に強いアレルギー反応が出た場合数か月は摂取するのをやめてみましょう。弱いアレルギー反応の場合には食べる回数を減らすだけで効果があります。ストップ・アンド・トライという方法ではアレルギーを疑った食品を10日間完全に断ち、その後摂取した後にどのような反応が起こるかを観察します。直後から起こる反応もあれば数日後に起こるものもありますが、一度良くなった症状が食品摂取後にまた起こった時にはアレルギー原因物質の確率がかなり高いということになります。

治療のゴールは健全な腸を取り戻すこと!腸から全身症状を改善していきましょう。


自己免疫疾患 ②
-自分を攻撃しない仕組みとは?-


自己免疫疾患は間違えて自分を攻撃してしまう病気のことです。でも通常の状態では自分を攻撃しないってとても不思議だと思いませんか?というのも抗体はランダム合成戦略を採用しているので自分の体に反応する抗体も出来てしまうからです。

免疫は外から来たものや自分ではないものを排除する仕組みですから、初めて出会ったもの=未知のものも排除出来ないといけません。そこで採用したのが抗体をランダムに合成する戦略です。とにかく多種多様なものを準備しておけばどれかはピッタリはまるだろうという理屈です。当然、自分に反応する抗体も出来てしまいます。そこでまず自分に反応する抗体産生細胞は取り除こうという機構が働きます。死滅の指令(アポトーシス機構)です。この主役となるのは胸腺と言う組織です。

アポトーシス機構だけでは除ききれない細胞もありますので二重三重の防衛機構を準備しています。その一つが免疫寛容免疫寛容は攻撃しないように指令を出す仕組みです。免疫には司令塔が存在し全身の免疫反応を制御しています。幼い時は胸腺が主に活動していますが十代で活動のピークを迎えた後小さくなって消えてしまいます。そこで新たな司令塔として活躍するのが腸管免疫です。




免疫では抗原が来たことを伝える伝令係、攻撃の司令係、実戦部隊などの連係プレーによって成り立っています。攻撃しないように指示する要の細胞は制御性T細胞(Treg)と呼ばれていて免疫寛容に重要です。攻撃の司令官としてはTh1Th2Th17などのヘルパーT細胞があり、それぞれ特徴をもった攻撃指令を出します(上図)。腸管には常に外から食べ物や病原菌、毒素などが入ってきます。また腸内細菌が共存しています。体内に入れてよいもの、共存するものと排除するものを選別するシステムが発達しているのは合理的なことです。特に排除しないシステム(免疫寛容)こそが腸管免疫の役割と言ってもよいぐらいです。

腸内細菌が乱れたり、病原菌の割合が増えたりすると攻撃指令官同士のバランスや制御性細胞(Treg)との力関係が変わり、本来体に必要なはずの免疫が病気としての症状を起こすようになります。次回は免疫バランスと病気、そして腸内細菌のかかわりについてもう少し詳しく見てみましょう。