2014年12月20日

薬と天然型サプリメントはここが違う
-抗酸化部位に注目:ビタミンE-


ビタミンEは、妊娠を助けるビタミンとして発見されました。その後で抗酸化作用が見つかり現在では抗酸化作用を期待してビタミンEを飲んでいる方が多数だと思います。

抗酸化の働きをする場所は、ビタミンEの端っこにあるOHという場所です(図ので囲んだ部分)。このHが移動することによって酸化物質の攻撃性を減らします。

 



ところが、ビタミンE製剤では、このOHが不安定であるという理由から他の形に変えてしまっています。ですから天然型ビタミンEに比べ、ビタミンE製剤の抗酸化作用はかなり弱くなっています。

ビタミンEにはαβγδトコフェロールとトコトリエノールという全8種類あります。この中でγトコフェロールが最も抗酸化力が強く、一種類より多種類存在した方がより効果を発揮できるようです。現在売られているビタミンEやビタミンE製剤はαトコフェロールの量だけを考えて作られており本来の抗酸化作用が十分に発揮できない可能性もあります。脂溶性ビタミンは奥が深いビタミンです。機会があればビタミンDやビタミンKの幅広い役割について解説してみたいと思います。

初歩から学ぶ体の仕組み
-脂溶性ビタミンの貯蔵・運搬・利用-


ビタミンAを例にとって、脂溶性ビタミンの安全性がどのように確保されているのかを、貯蔵・運搬・利用の観点から考えてみようと思います。自然界に存在する天然ビタミンA(レチノールやレチニルエステル、βカロチンなど)であることが前提です。

吸収の時には、油脂と一緒に吸収されます。脂抜きの食事を続けると脂溶性ビタミンの吸収も減ってしまいます。また胆嚢の手術などで胆汁が出にくい方には注意が必要です。

脂溶性ビタミンは専用のたんぱく質に包まれて貯蔵庫に移動します。ビタミンAの貯蔵庫は肝臓にある星細胞(stellate cell)です。星細胞は貯蔵するだけでなく肝臓の再生を促進する役割を持っていて、ビタミンAが枯渇すると細胞の性質が変わり線維化を促進してしまいます。

脂溶性ビタミンは必要に応じて貯蔵庫から目的の場所に運搬されます。その際にも専用の運搬たんぱく質が運びます(鉄の時と同じですね)

目的の場所でもさらに安全弁が働きます。細胞内で必要なだけ活性型(遺伝子に作用するレチノイン酸)に変換され、核の中に入るとまたたんぱく質(レセプター)に結合してから遺伝子に働きかけます。不要になると速やかに非活性型に変換されます。生体はこれだけたくさんの調節・安全弁を駆使しているのですね。


脂に溶けるのは悪いこと?
-脂溶性ビタミンの働き-


脂溶性ビタミンほど、多彩で有効な働きを持ちながら不遇だったビタミンはないと思います。例えばビタミンA! -教科書を見るとビタミンA過剰症の害について必ず書かれています。その症状とは昔探検隊が『北極ぐまの肝臓を食べた』結果起きた症状が根拠になっています。以後、多量(と考えられている)ビタミンAを摂取する人は長らくいませんでした。1996年以降にオスローの研究グループが北極ぐまの肝臓から「内分泌撹乱物質」を発見し、ビタミンAの副作用と考えられていた症状が別の物質によるものではないかと考えられるようになっています。

脂溶性ビタミンには、他にビタミンD, E, Kなどが含まれます。これらのビタミンは細胞膜を簡単に通り抜けることが出来、遺伝子に直接働きかけます。これまで知られていた網膜への作用(ビタミンA)、骨への作用(ビタミンD)、凝固因子を助ける働き(ビタミンK)以外に、遺伝子の発現調節による免疫調節やホルモン調節、癌抑制など新しい働きが次々と見つかっています。

遺伝子に直接働きかける物質の安全性を確保するためには「活性型」と「非活性型」という考え方が大変重要です。常に信号が『オン』になっていたら危ないのです。ある時には『オン』ある時にはきちんと『オフ』になることが大切で、自然界のビタミンでは「活性型」と「非活性型」の変換調節がかなり厳密に行われています。

薬は「常に活性型のものを作って入れる」ことが多く、そこでは様々な問題が生じます。何が安全で何か危険なのかを見極めたうえで、脂溶性ビタミンの効果を最大限に享受する工夫が求められています。

クルードな(精製・加工していない)プレカーサー(活性化前の形)を摂り、あとは体に任せる

分子整合栄養医学の基本的考え方

 

2014年10月6日

検査値のここに注目!
-組織ミネラル濃度測定の試み-


多くのミネラルは組織や脂肪、血管壁に存在していて血液中の濃度と体内(組織)中の濃度は一致しません。


有害ミネラルは、本来は必須のミネラルが結合する場所に結合して働きを邪魔します。そこで組織内のミネラルの量やミネラル相互のバランスを調べるために開発された方法がいくつかあります。
 
ひめのともみクリニックでは、オリゴスキャンを利用した組織ミネラル測定が可能になりました(要予約)。ご興味のある方はこの機会にお問い合わせください。

 

初歩から学ぶ体の仕組み
-カルシウムとシグナル伝達-


細胞は外からきた指令をどのようにして細胞の中に伝えているのでしょうか? その仕組みの一つがカルシウムの流入です。

カルシウムイオンの細胞内:細胞外濃度は約110000に厳密に保たれています。この濃度を維持するために細胞はせっせと細胞内のカルシウムを外(一部は細胞内小器官)に汲み出しています。ある指令が来るとカルシウムチャネルが開いてカルシウムが流入します。カルシウムの濃度が変化すると、たんぱく質にカルシウムがくっついたり離れたりします。その結果、筋肉の収縮、神経の興奮、ホルモンなどの分泌が起きます。役目を終えるとカルシウムは汲み出され瞬時に濃度がもとにもどります。

糖尿病でインスリンの分泌反応が遅くなっているパターンの方がいます。インスリンの分泌量は十分なのに反応が遅いため食後に大きく血糖値が上昇し45時間後には低血糖になっていることもあります。この場合(もちろん他の原因もありますが)カルシウム不足がおおいに関係しています(下図)。インスリンの分泌にもカルシウムの信号が必要だからです。



引退を考えているスポーツ選手も、ぜひ一度はカルシウム不足を疑いましょう。筋力は衰えていないのに反射が鈍くなったと感じたらカルシウム(とマグネシウム)不足かもしれませんよ。

 

きみとぼくは兄弟
-ブラザーイオン-


兄弟(姉妹)は似たところもあれば違うところもあり、仲が良いかと思えば張り合ったりして独特の関係ですね。栄養素の世界にも兄弟のようなペアがあります。例えば、カルシウムとマグネシウム、ナトリウムとカリウム、亜鉛と銅などです。

今回はカルシウムとマグネシウムを取り上げます。カルシウムもマグネシウムも水溶液中ではイオンの形で存在しています。この二種類のイオンには大きな特徴があって、細胞内と細胞外では濃度が全く違うのです。


どうです? 全く反対でしょう? お互いがお互いを牽制・調節しあって均衡を保っています。実際にカルシウムが通るチャネルにはマグネシウムが存在していて、カルシウムの通り方を見張っています。

次の章で説明するように、カルシウムの濃度変化は細胞に信号を伝えるために使われており細胞内外の濃度を厳密に保つことは大変重要です。血液中の濃度が下がるとカルシウムは骨から、マグネシウムは骨や筋肉から動員されてすぐに理想的な濃度にもどります。でも、カルシウムやマグネシウムの排泄が増えるような状況が続くと濃度の低下が続き調節に乱れが生じます。血糖値の上昇やストレスはこれらのミネラルの尿中排泄を増やす大きな要因です。


カルシウムの欠乏は血液検査や骨の強度などで測りやすいためこれまでも強調されてきましたが、ここで忘れていけないのはマグネシウムです。乳製品の消費の伸びに比べ魚介類、小魚、海藻類やにがりによるマグネシウム摂取は減っています。日本のCaMg摂取比率は1978年には約1.0でしたが、2004年には2.1になってしまいました。

マグネシウム不足は、不整脈や狭心症・心筋梗塞、脳の血管攣縮、こむらがえりや神経症状、ミトコンドリアの機能低下など様々な症状に関係しています。

やはり兄弟は平等に扱うことが大切ですね。

2014年8月16日

検査値のここに注目!
-貧血と血清鉄とフェリチン-


貧血でなければ鉄欠乏ではないと思っている方がまだまだ大多数です。貧血と鉄欠乏の違い、血清鉄の示す意味についてまとめてみます。

 


貧血ではなくても鉄欠乏による症状が発現します。貯蔵鉄量、つまりフェリチンを測定することが重要になります。体に炎症がない状態ではフェリチンは貯蔵鉄量と連動して数値が変化します。ただし、鉄を貯蔵している細胞(肝臓や白血球など)に炎症が起きたり壊れたりして細胞内のフェリチンが漏れている時には鉄が欠乏していても高値になるので解釈には注意が必要です。

 


初歩から学ぶ体の仕組み
-鉄の役割は貧血の改善だけではありません-


生命の維持にとって酸素を運ぶことは最重要課題です。酸素を運ぶ赤血球には鉄が必要なので、鉄欠乏=貧血と強く意識されすぎて鉄の他の役割はついつい忘れがちです。

体内に存在する鉄の多くは赤血球のヘモグロビン(約70%)と筋肉のミオグロビン(約5%)に存在していますが、量は少なくてもピリッと大切な役割をしているのが酵素と一緒に存在している鉄です。全体のたった0.7%しか占めていないこの鉄があなたの人生を変えるといってもよいでしょう。鉄はどんな酵素を助けているのでしょう?

 

l  ATP(エネルギー)を産生する酵素

l  解毒酵素(チトクロームP450など)

l  活性酸素を除去する酵素
(カタラーゼ、ペルオキシダーゼ)

l  神経伝達物質を合成する酵素
(モノアミン酸化酵素など)

l  糖新生やTCA回路に関わる酵素

l  コラーゲンの架橋に関わる酵素

l  DNA合成に関係する酵素

 

その他細胞性免疫、甲状腺ホルモンの変換など生命活動の根幹にかかわる働きをしています。潜在的な鉄の欠乏は気付かれないうちに多彩で広範な症状の原因になっているのです。

鉄はやさしく包んで


壊れ物や危険物は特殊な容器やトラックでしっかり包んで専用ルートで運びますよね。鉄は体に有用なミネラルですが、反応性も高いので体はしっかりと包んで運んでいます。

鉄が万が一にも体に害を起こさないように、

 

・吸収された鉄は、たんぱく質の中で安定型にして貯蔵します

・運搬時には、指令に従って専用たんぱく質が迎えに来ます

・細胞では、運搬たんぱく質ごと細胞に取り込みます

 

食品の鉄にはイオン型の鉄とヘムと結合した鉄(ヘム鉄)があります。野菜や鉄剤の鉄はイオン鉄、肉やレバーの鉄はヘム鉄です。イオン鉄は吸収率が悪く(5%ぐらい)胃酸や食物繊維などの影響を受けます。ヘム鉄にはイオン鉄とは別の専用通路があり吸収率は30%ぐらいです。

吸収された鉄は小腸の粘膜細胞に貯蔵されます。水に溶けにくい三価鉄Fe(III)になってからアポフェリチンと結合し安定な状態で存在しています。小腸の貯蔵庫が一杯になると細胞ごと便中に排泄されます。体内で不要になった鉄はたんぱく質が捕捉して肝臓や脾臓、骨髄などに貯蔵されます。

鉄が必要になった場合、指令が出てトランスフェリンが貯蔵場所まで迎えに行きます。運ばれた鉄はトランスフェリンに結合したまま細胞の中に入り、目的のたんぱく質に受け渡されます。このように、口から摂った鉄は過剰に入ることはありませんし体内ではたんぱく質と結合しているので害にもなりません。ただし鉄剤が飲めないからと言って鉄イオンを直接体内に注射してしまうのは大変危険です。

活性酸素が多い場所では鉄がたんぱく質から離れやすくなり、離れた鉄はフェントン反応を助けて活性酸素を発生しやすくなります。ですから鉄過剰を心配するより、たんぱく質をしっかり摂り、活性酸素を消去する能力を高めることが大切です。

栄養素は口から入れて体の仕組みに任せることが大切です。

栄養素は口から十分摂ってあとは体の調節に任せる