2014年8月16日

検査値のここに注目!
-貧血と血清鉄とフェリチン-


貧血でなければ鉄欠乏ではないと思っている方がまだまだ大多数です。貧血と鉄欠乏の違い、血清鉄の示す意味についてまとめてみます。

 


貧血ではなくても鉄欠乏による症状が発現します。貯蔵鉄量、つまりフェリチンを測定することが重要になります。体に炎症がない状態ではフェリチンは貯蔵鉄量と連動して数値が変化します。ただし、鉄を貯蔵している細胞(肝臓や白血球など)に炎症が起きたり壊れたりして細胞内のフェリチンが漏れている時には鉄が欠乏していても高値になるので解釈には注意が必要です。

 


初歩から学ぶ体の仕組み
-鉄の役割は貧血の改善だけではありません-


生命の維持にとって酸素を運ぶことは最重要課題です。酸素を運ぶ赤血球には鉄が必要なので、鉄欠乏=貧血と強く意識されすぎて鉄の他の役割はついつい忘れがちです。

体内に存在する鉄の多くは赤血球のヘモグロビン(約70%)と筋肉のミオグロビン(約5%)に存在していますが、量は少なくてもピリッと大切な役割をしているのが酵素と一緒に存在している鉄です。全体のたった0.7%しか占めていないこの鉄があなたの人生を変えるといってもよいでしょう。鉄はどんな酵素を助けているのでしょう?

 

l  ATP(エネルギー)を産生する酵素

l  解毒酵素(チトクロームP450など)

l  活性酸素を除去する酵素
(カタラーゼ、ペルオキシダーゼ)

l  神経伝達物質を合成する酵素
(モノアミン酸化酵素など)

l  糖新生やTCA回路に関わる酵素

l  コラーゲンの架橋に関わる酵素

l  DNA合成に関係する酵素

 

その他細胞性免疫、甲状腺ホルモンの変換など生命活動の根幹にかかわる働きをしています。潜在的な鉄の欠乏は気付かれないうちに多彩で広範な症状の原因になっているのです。

鉄はやさしく包んで


壊れ物や危険物は特殊な容器やトラックでしっかり包んで専用ルートで運びますよね。鉄は体に有用なミネラルですが、反応性も高いので体はしっかりと包んで運んでいます。

鉄が万が一にも体に害を起こさないように、

 

・吸収された鉄は、たんぱく質の中で安定型にして貯蔵します

・運搬時には、指令に従って専用たんぱく質が迎えに来ます

・細胞では、運搬たんぱく質ごと細胞に取り込みます

 

食品の鉄にはイオン型の鉄とヘムと結合した鉄(ヘム鉄)があります。野菜や鉄剤の鉄はイオン鉄、肉やレバーの鉄はヘム鉄です。イオン鉄は吸収率が悪く(5%ぐらい)胃酸や食物繊維などの影響を受けます。ヘム鉄にはイオン鉄とは別の専用通路があり吸収率は30%ぐらいです。

吸収された鉄は小腸の粘膜細胞に貯蔵されます。水に溶けにくい三価鉄Fe(III)になってからアポフェリチンと結合し安定な状態で存在しています。小腸の貯蔵庫が一杯になると細胞ごと便中に排泄されます。体内で不要になった鉄はたんぱく質が捕捉して肝臓や脾臓、骨髄などに貯蔵されます。

鉄が必要になった場合、指令が出てトランスフェリンが貯蔵場所まで迎えに行きます。運ばれた鉄はトランスフェリンに結合したまま細胞の中に入り、目的のたんぱく質に受け渡されます。このように、口から摂った鉄は過剰に入ることはありませんし体内ではたんぱく質と結合しているので害にもなりません。ただし鉄剤が飲めないからと言って鉄イオンを直接体内に注射してしまうのは大変危険です。

活性酸素が多い場所では鉄がたんぱく質から離れやすくなり、離れた鉄はフェントン反応を助けて活性酸素を発生しやすくなります。ですから鉄過剰を心配するより、たんぱく質をしっかり摂り、活性酸素を消去する能力を高めることが大切です。

栄養素は口から入れて体の仕組みに任せることが大切です。

栄養素は口から十分摂ってあとは体の調節に任せる