2015年12月21日

消化管の炎症を診る
-消化器総合検査(CDSA_2.0)-

口腔内だけでなく消化管の炎症も体に大きな影響を及ぼします。消化管の炎症は、炎症物質が血液中に入って肝臓の炎症の原因になったり、腸粘膜を傷つけてリーキーガット症候群の原因になったりします。腸の炎症は血液検査では分かりにくく、便の消化器総合検査(CASA_2.0)が多くの情報をもたらしてくれます。(オフィスひめの通信38号も参照)
消化器総合検査では二つの炎症マーカーを測定します。好酸球蛋白XEosinophilProteinX)は好酸球が分泌する物質です。主にアレルギー性の炎症をみます。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)、寄生虫、慢性的下痢、アレルギー、リーキーガット症候群、アトピー、アルコールの過剰摂取などで上昇します。
カルプロテクチン(Calprotectin)は主に好中球に存在する物質です。炎症を伴わない過敏性大腸炎と炎症性の腸疾患の区別をするために有用なマーカーです。大腸がん、ポリープの際に上昇することもあり、カルプロテクチンが高値の場合には原因を診断するための大腸内視鏡検査が必要となります。炎症性腸疾患の再発を早期に発見したり、改善効果をみたりするのにもよいマーカーです。
消化管に炎症が存在すると、肝臓の働き、副腎の働き、そして脳の働きに影響が出ます。腸の状態が悪いままたんぱく質をたくさん摂ると、腸内環境が返って悪化し症状が強くなることもあります。まず炎症の改善、そして粘膜の再生と腸内細菌叢の改善が根本改善への道筋です。


口腔内の乾燥
-口呼吸していませんか?-


あなたは口をぐっと閉じても、ずっと平気でいられますか?知らないうちに口を半開きにして口呼吸をしていませんか?風邪をひきやすい方や口やのどが乾燥しやすい方は、寝ている間に口呼吸をしている可能性があります。

口腔内が乾燥すると、唾液の抗菌作用や潤滑作用が不十分になり、歯が着色したり、う歯になりやすかったり、口腔内に菌が増えて口臭がきつくなったりします。唾液が減少する理由は口呼吸だけでなく、ストレスや薬、ビタミンやミネラル不足なども影響します。

鼻呼吸では空気が鼻を通る間にウイルスや細菌、微粒分子などがフィルターに掛けられ、喉や気管に入る量を減らしていますが、口呼吸ではこれらが直接入ってしまいます。また鼻粘膜は空気の湿度を上げる働きがあるのに対し、口呼吸では乾燥した空気がそのまま入ります。そのため風邪やアレルギー症状が起きやすくなります。

口呼吸の方は鼻に炎症があり、鼻の空気の通りが悪くなっている場合が多いので、まずは耳鼻科で治療することをお勧めします。その上で口周囲の筋肉を鍛えましょう。本格的な訓練方法もありますが、ここでは簡単に出来る「かっいうべ体操」をご紹介します。(図提供:株式会社AdaBio)

口腔内の状態を整える方法としては、唾液を増やすためにビタミンAやビタミンC、たんぱく質、亜鉛、カルシウム、マグネシウムを摂ったり、口腔内の細菌を整えるため口腔有用菌のサプリメントを摂ったりする方法もあります。早速今日から対策を始めましょう。

口腔と全身疾患
-体の健康はお口から-

ある患者さんで血液検査の結果が急に変わったことがあります。「何かありましたか?」と尋ねると、「歯の治療に通っていて、うまく噛めずにうどんばかり食べていました」とのお返事です。歯のこと、口腔内のことは、こちらから尋ねない限りお話されないことが多いようです。何となく話しにくかったり見られたくないとは思いますが、口腔内と体は切っても切れない関係があるのです。
歯周病の菌が血液に入ると、心臓の弁に付着して塊をつくって心臓の働きに異常を来したり、血管を詰まらせたりすることは昔からよく知られています。また歯周病菌や歯周炎によってTNF-αというサイトカインが増えインスリンの効き目を悪くすることにより、内臓脂肪の蓄積や糖尿病の原因になります。炎症の場所には常に活性酸素が発生しているため動脈硬化も進みます。歯周病を放置すると多くの恐ろしい病気に結びつくのです。
 

口腔内の状態を良好に保つためには、たんぱく質やビタミンCなどで抵抗力を保つこと、ストレスや過度の飲酒を避け唾液の減少を防ぐこと、よい口腔内細菌に置き換えていくことなどが大切です。予防医療と同時に予防歯科! よい状態を維持するために、歯科を定期的に受診し口腔内の健康を保ちましょう。
当院では、栄養療法やアマルガム除去に理解のある歯科医をご紹介しています。

2015年11月1日

有害重金属蓄積の診断


現在、当クリニックで実施している有害重金属蓄積の検査は3つあります。

¨   オリゴスキャン

l   血管や脂肪組織に蓄積しているミネラル量を吸光光度法で測定

¨   毛髪ミネラル検査

l   毛髪(生え際)のミネラル測定

l   毛髪への排泄量をみる

¨   尿中有害金属検査

l   尿中に排泄される金属量を測定する
・キレート剤を服用前の検査  通常の尿への排泄能力
・キレート剤を服用後の検査  薬剤による尿への排泄能力

「オリゴスキャン」は、血管や脂肪組織のミネラルを吸光光度法で測定する方法です。痛くないこと、測定した場所のミネラル量を推定できる点が長所です。まだ新しい検査の為、測定場所以外のミネラル量推定や測定の精度(正しさ)についてはデータを蓄積中です。

毛髪ミネラル検査では、毛髪に排泄されるミネラル量を測定します。測定結果から体内の必須ミネラル不足と、有害重金属の蓄積量を推定しますが、排泄障害があると低値になります。必須ミネラル値がばらつく場合には、ミネラル全般の輸送障害を疑います。

尿中有害金属検査は、診断と治療の予測や効果判定を兼ねた検査方法です。キレート剤を体内に入れて排泄をみます。重金属蓄積が疑われる人の排泄量はキレート剤なしでは軒並み低いことが多く、体内に蓄積したミネラルをキレート剤に結合させて排泄させます。体内に隠れている重金属蓄積を診断し、同時にキレート剤の効果予測をします。治療終了後の効果判定にも使用します。

いずれも、それぞれの検査の意味、検査時の注意事項をよく理解して実施しましょう。

有害重金属はエネルギー代謝をストップさせる!



食べ物を活動のエネルギーに変えるためには酵素の働きによって化学反応が進み、最終的にATPが産生されることが必要です。その途中段階に右のような反応回路があります。TCAサイクルの反応に必要な酵素の補酵素がビタミンB群でしたね(オフィスひめの通信41号参照)。ところが、ビタミンや酵素があってもエネルギー回路が回っていない人がいます。何かが反応を邪魔しているのです。有害重金属は右図のような箇所で反応をストップしています。食べ物を変えてもサプリメントを飲んでもエネルギーが出ない、疲れがとれないという方はエネルギー回路がどこで止まっているか調べてみましょう。尿中有機酸検査の「クレブス(TCA)回路代謝物」の項目は、代謝が止まっている場所の推定に役立ちます。


ミネラルの働きと有害重金属蓄積


栄養療法では、腸内環境の改善や欠乏する栄養素の補充によって病気の根本原因を解決する方法をさぐってきました。食事の変更やサプリメントの摂取、腸内環境の改善に努めてきたのに治療効果が上がらないという方は、有害重金属蓄積を考慮する必要があるでしょう。

必須ミネラルは生命活動に重要な役割を果たしています。酵素の中に位置して反応を助けたり、鉄のように酸素を結合して運んだり、カルシウムのように骨に強度を与えたりしています。信号伝達や遺伝子の発現に関わるミネラルもあり、ごく微量でも重要な役割を担っているミネラルもあります。

ビタミンもミネラルも共に重要な栄養素ですが、ビタミンとミネラルには一つの大きな違いがあります。ビタミンは多すぎて困るということがほとんどないのに対し、ミネラルは一つのミネラルが過剰になると他のミネラルの働きを妨げることがあり、相互のバランスがとても重要だという点です。例えば、亜鉛の過剰は銅を阻害し、カルシウムがマグネシウムに比べて過剰になると害になります。同様に有害ミネラル(重金属)も必須ミネラルの働きを妨げます。

水銀やカドミウムなどの有害ミネラルは亜鉛と性質がとても似ていて、体に入り込むと亜鉛の働きを阻害してしまいます。また体の組織と結びつくとなかなか外に排泄されません。他にも鉛やアルミニウム、ヒ素、ニッケルなどが体に蓄積すると様々な問題が起こることがわかっています。

どの程度の有害金属摂取が健康被害をもたらすのかについてはよくわかっていません。一人一人の感受性や排泄能力が異なり、必須ミネラルの欠乏状態によっても左右されるからです。有害ミネラルが過剰になると次のような問題を引き起こします。

¨  腸内環境を悪化させる

¨  エネルギー代謝を阻害する

¨  神経や肺・肝・腎への蓄積による直接的なダメージを持つ

有害重金属の蓄積量や排泄能力を検査する方法が少しずつ普及しています。一緒に学びながらよりよい解決方法を探していきましょう。

2015年8月1日

カンジダの増殖を検出
―尿中有機酸検査 「イーストと真菌マーカー」


腸内カンジダがどの程度増えているのか調べることは出来るのでしょうか?血液中のカンジダ抗体や便検査は、その時々のカンジダの量を反映しません。そこで登場するのが尿中有機酸検査です。尿中有機検査「イーストと真菌マーカー」ではカンジダや真菌が産生する物質を測定します。カンジダが産生する代表選手であるアラビノースについて詳しく見てみましょう。

アラビノースはカンジダが持つヒアルロニダーゼによってヒアルロン酸から産生されます。産生されたアラビノースは腸壁から体内に入り血液中を回って尿に排出されます(下図)。ヒトはアラビノースを産生することが出来ませんので、尿中に検出されたアラビノースは腸のカンジダによって産生されたと解釈できます(アラビノースはりんごやぶどうにも含まれているので検査前にはこれらの果物を食べないようにします)。

カンジダが増えればアラビノースも増え、カンジダが減ればアラビノースも減ります。そのため、リアルタイムにカンジダの増殖や治療効果を知ることが出来ます。また、アラビノース以外には酒石酸シュウ酸もカンジダや酵母・真菌増殖のよいマーカーになります。

尿中の有機酸検査はカンジダの増殖以外にも、神経伝達物質の変換やエネルギー代謝がきちんと働いているかなどたくさんの情報を得ることが出来る優れた検査です。後日また説明する機会を得たいと思います。

カンジダを増やす要因


カンジダが増える要因には次のようなものがあります

1.  酵母(パン酵母など)を多く含んだ食品の摂取

2.  糖質が多く食物繊維の少ない食事

3.  有機水銀(メチル水銀)

 
1. 酵母(パン酵母など)を多く含んだ食品の摂取
  腸内細菌は群れを形成し勢力争いをしています。カンジダは酵母の仲間であるため、酵母を多く摂取するとカンジダの勢いが増すことがあります。


2.糖質が多く、食物繊維の少ない食事
  カンジダの増殖には食事も大きく影響します。カンジダは糖質が大好きです。一方、善玉の腸内細菌は食物繊維などを餌にして増えます。外食や加工食品は糖質が多く、食物繊維が少ないので注意が必要です。月経前に糖質が欲しくなる方や甘い物への欲求が強い方は、カンジダが糖を欲しがっている可能性があります。カンジダ増殖に早く気付いて対処することが大切です。

3.有機水銀(メチル水銀)
  カンジダは消化管に排泄された水銀を細胞壁に取り込む性質があり、細胞壁の水銀が満杯になるとメチル水銀として腸内に放出します。メチル水銀は白血球の細胞内殺菌能力を低下させて、カンジダへの抵抗力を弱めます。
  また、歯科治療によりアマルガムが歯に入っていると水銀蓄積の原因となることがあります。アマルガム除去専門の歯科医に相談しましょう。

 

腸内カンジダ増殖と様々な疾患

  今回は、腸内のカンジダの増殖の影響に注目します。これまで取り上げてきた機能性低血糖症リーキーガット症候群(LGS)副腎疲労症候群など様々な病気の背景には、このカンジダ増殖が隠れていることがあります。食事を変えたりサプリメントなどで栄養をとったりしてもなかなか良くならない方は、カンジダの増殖が改善を妨げていないか一度検討してみる必要があるでしょう。

カンジダは腸の常在真菌の一つで、誰にでも存在しています。健全な腸ではカンジダの割合は少なく、特に悪い作用を起こしません。ところが抗生物質の服用によって良い菌が死んでしまったり、免疫力が一時的に低下したりするとカンジダが急激に増えることがあり、次のような有害作用が表に出てきます。

l  消化管粘膜の表面構造を分解する酵素を産生する

l  免疫系に毒性のある物質を生成する

l  ヒトの分子と似た構造を持つため自己免疫疾患の原因となる

l  カンジダの細胞壁のたんぱく質がグルテンに似ていて、グルテンアレルギーを惹起する

カンジダは免疫系に毒性のある物質を産生するため、カンジダが増殖すると免疫系が抑制されて更にカンジダが増えるという悪循環になります。そしてカンジダの産生する酵素が消化管粘膜を破壊し、リーキーガット症候群の原因となってしまうのです。

抗生物質は肺炎による死亡率を減らすなど多くの恩恵をもたらしてきましたが、本当に必要な時以外にも使っていないでしょうか?抗生物質は、腸の善玉菌をもやっつけてしまいます。通常は服用後すぐに善玉菌が勢力を盛り返すのですが、善玉菌を増やす食物繊維がなかったり、カンジダの勢いが強かったりした場合には勢力図が変わってしまいます。子供が中耳炎の治療をきっかけにおかしな行動をしたり、女性が抗生物質を飲んだ後に膣炎になったりした場合にはカンジダ増殖を疑う必要があります。

腸は免疫系や脳とつながっています。カンジダをきちんとコントロールして腸の状態を整えることがあらゆる治療の基本です。

2015年6月1日

唾液コルチゾール日内変動


コルチゾール(副腎皮質ホルモン)は生命維持に関わるホルモンであるため、よほど重篤な疾患を除いて血液中の濃度は維持されます。実際の働きを見るには血液中の濃度ではなく唾液中(組織や細胞レベル)の分泌量を見る必要があります。そこで副腎疲労症候群の診断のために用いられる検査が唾液コルチゾール日内変動です。

唾液は、8時・12時・16時・24時の14回採取します。コルチゾールは朝分泌量が多く、昼から夜にかけて低下するのが正常のパターンです。(下図参照)

ホルモンのピークが昼から夕方に現れる場合、1日を通じてホルモン分泌が平坦な場合、ホルモン値が正常でも疲労感が強い場合には、副腎疲労症候群を疑って早めに治療をすることが大切です。


機能低血糖症に関わるホルモン
ーカテコラミンとコルチゾール


 

 


血糖値を低下させるホルモンはインスリンだけですが、上昇させるホルモンはたくさんあります。また、ホルモン分泌に先だって、血糖上昇時には副交感神経が、血糖下降時には交感神経が刺激されます。機能性低血糖症による自律神経症状や精神症状は、これらのホルモンや自律神経の複雑な組み合わせで形成されます。そして症状の強さに影響するのは血糖の数値ではなく変動の速さです。

ホルモンの中ではカテコラミンに分類されるアドレナリン・ノルアドレナリンなどが最も早く発動します。


アドレナリン・・怒りや敵意、暴力などの攻撃的な感情
ノルアドレナリン・・恐怖、不安、自殺観念などの否定的な感情

交感神経の緊張とカテコラミンによる身体症状には、手足の冷え、浅い呼吸、動悸、眼の奥の痛み、筋肉の痙攣や震え、頭痛、発汗、目の前が暗くなったり光を眩しく感じたりする、などがあります。

低血糖時には、脳を守るため大脳皮質の活動が低下していますから理性による抑制力が弱くなっています。より情動的・刹那的な感情が表に出やすくなります。

繰り返し低血糖が起きるとホルモン産生器官である副腎が疲労し、さらに慢性的な低血糖症、アレルギーや原因不明の痛み、疲労感に発展します。副腎の疲労を推定する検査の一つに唾液コルチゾール日内変動という検査がありますので、以下で詳しく説明します。


参考:柏崎良子著『低血糖症と精神疾患治療の手引き』

機能性低血糖症
-精神疾患と誤診されやすい多彩な症状


今回は機能性低血糖症について取り上げます。機能性低血糖症は「精神症状や自律神経症状を伴う血糖調節異常」のことです。眠気や頭痛などの症状も含めれば、潜在的に機能性低血糖症を持っている方の人数はかなり多いのではないかと思います。

機能性低血糖症の症状は多彩です。

l  食直後または数時間後の耐えがたい眠気

l  動悸や冷や汗・息苦しさなどの身体症状

l  眼のチカチカや頭痛

l  イライラ感・爆発的な怒り

l  不安感や気分の落ち込み

l  不眠・朝起きられない・だるい

思考力の低下や記憶力の低下も多く見られる症状の一つです。「判断が出来ず能力が低下した感じがする」「記憶力が悪くなった」と思ったら可能性を疑いましょう。機能性低血糖症は他の疾患と間違われやすい疾患です。例えば、動悸と息苦しさが強く不安感に襲われて救急車で病院に行ったけれども検査で異常がなくパニック障害と診断されたり、不眠やだるさからうつ病と診断されたりします。

「検査で異常がないから心療内科に行きなさい」と言われた時は、心療内科に行く前にぜひ低血糖症の検査をしましょう。

測定した血糖値が低くなくても機能性低血糖症である可能性があります。ですから、きちんと5時間糖負荷試験*註1で血糖やインスリン変動パターンなどを見るようにしましょう。機能性低血糖症に熟練した医師が見れば、「異常がない」と言われた検査結果の数値にも徴候が出ていることがありますから、これまでの検査結果もぜひ持っていくとよいでしょう。

また、同じ血糖値の変動パターンでも症状が出やすい方と出にくい方がいます。機能性低血糖症は単に糖質摂取と血糖変動だけの問題ではなく、血糖調節に関わる栄養素や腸の状態、ホルモンバランスやホルモン分泌予備力が大きく関わる複合的な病気です。治療は食事を中心に実施しますが、画一的な治療ではなく一人一人の体の状態に合わせた細かい工夫が大切です。


註1:5時間糖負荷試験とは、75gのブドウ糖液を飲んだ後、血糖値とインスリン、体温を5時間にわたって測定する検査のことです。詳しくはオフィスひめの通信47号もご覧下さい。