2020年11月19日

ミネラルの検査


ミネラルを診断する検査には毛髪検査、血液検査、尿中排泄検査、組織内濃度検査などがあります。毛髪検査は排泄の検査です。体内に欠乏すると低値に出ることが多いのですが水銀などを排泄出来ない人は、結果が低値でも他の人より蓄積量が多い場合があります。

 

血液中のミネラル濃度は輸送を見る検査です。急性中毒には有効ですが蓄積して動かないミネラルの測定には向きません。

尿中排泄検査は薬によって排泄したミネラルを見る検査です。信頼性が高く薬の有効性の判定にも使用できます。使用する薬の種類によって排泄する金属の種類に違いが生じます。ただし体内に蓄積した有害重金属を引っ張り出してしまうので体調を整えてから実施しましょう。

 

 組織内濃度検査(オリゴスキャン)は手のひらに光を当ててミネラル特有の波長を検出します。まだ新しい検査手法ですが組織に存在するミネラルを測定するという点で優れています。データの蓄積により低年齢のお子さんも利用可能になってきました。

 それぞれ検査の意味が違いますので上手に組み合わせて正確な状態を把握しましょう。




 

2020年11月1日

ミネラルと炎症

炎症の周りにはミネラルが活躍しています。ミネラルには最外殻の電子を与えたり奪ったりする性質のものがあります。酵素の活性中心にこのようなミネラルを置くことにより高エネルギーのラジカルや活性酸素を発生させて殺菌したり、役割を終えたラジカルを消去したりします。

 

例えば好中球には鉄を含んだミエロペルオキシダーゼという酵素があり次亜塩素酸を発生させ細胞内に貪食した細菌を殺菌します。鉄を含んだカタラーゼという酵素は、殺菌・炎症の場所で発生する過酸化水素水を水と酸素に分解して無害化する役割をしています。活性酸素の消去には亜鉛や銅、セレン、マンガンなどのミネラルも大活躍しています。これらのミネラルが不足すると炎症によって発生したラジカルや活性酸素を速やかに消すことが出来ず連鎖反応を起こして周囲の細胞や組織が傷ついてしまいます。

 

 ミネラルはバランスが重要です。カルシウムとマグネシウム、亜鉛と銅などペアで働くミネラルはどちらかが多過ぎても少なすぎてもいけません。マグネシウムはカルシウムを抑制するミネラルです。カルシウムに比べてマグネシウムが欠乏すると血圧が上昇したり神経細胞死が起きたりします。

 

 有害重金属はもっと厄介です。例えば亜鉛と似た性質を持つ水銀やカドミウムが亜鉛酵素にはまり込むと酵素は本来の働きを失ってしまいます。重金属は活性酸素の発生源にもなるので二重の意味で体の機能を低下させます。有害重金属は結合が強く無理やりはがして排泄させないといつまでも体内に蓄積し続けます。ミネラル摂取の効果が出ない場合には重金属蓄積の検査やキレーションによる排泄を検討しましょう。

  

慢性炎症と疾患

COVID-19ではウィルスの増殖そのものではなく、ウィルスをきっかけに起きた免疫暴走が肺炎や臓器障害の原因となり命を脅かすことを目のあたりにしました。このような炎症はCOVID-19に限ったことではなく身近に存在します。特に持続的な炎症のくすぶりは、自覚症状がないままに少しずつ臓器や血管、細胞や遺伝子に傷をつくり病気の原因になっています。


炎症の原因は「異物(=自分ではないもの)」や「余分なもの」です。異物の代表例は腸から侵入した食べ物のかけらや有害重金属、環境化学物質などです。歯周病菌や細胞に潜伏して感染するマイコプラズマ、リケッチアなどの病原微生物も炎症の原因です。また、体にもともと存在するものが代謝異常を伴うと炎症の原因になることがあります。例えば終末糖化産物AGEs)は体内のたんぱく質に糖が結びつき、さらに複雑な反応を受けて生成され蓄積します(ただし体内蓄積の一部は食べ物由来です)。AGEsは活性酸素の発生源になったり、AGEsのレセプターを介して炎症のスイッチを押したりします。内臓脂肪も炎症の原因になります。肥大した脂肪細胞は炎症や血栓を惹起するサイトカインを出し始めるからです。メタボリック症候群と単なる肥満の違いは炎症の有無なのです。


長引く炎症は「異物を除去する」という本来の役割を越えて私たちの体を壊します。働ける細胞が減り線維化して瘢痕(はんこん)が残り組織が硬くなっていきます。炎症の影響は臓器や血管という目に見えるレベルだけでなく細胞内のミトコンドリアや遺伝子にも及び、エネルギー産生に支障が出たり癌細胞の芽が生まれたりします。


 炎症の原因になるものは「入れない、溜めない、外に出す!」。口に入れるもの、吸い込むものの質をチェックしましょう。リーキーガット症候群では粘膜バリアが破綻しているため本来入るはずのない大きなたんぱく質のかけらや細菌の一部が入り込むことにより炎症を起こします。血液脳関門に隙間が出来るリーキーブレインでは神経やそれを支える組織の炎症が起きて発達障害や認知症の原因になることもあります。粘膜バリアを壊す要因をなくして健全なバリアを取り戻すことが大切です。


 炎症は用が済んだら素早く火消しをして収束させる必要があります。火消しに大きな役割を果たしているのが副腎です。炎症が長引けは副腎が疲れてきます。精神的なストレスに覚えがなくても隠れ炎症にさらされると副腎疲労症候群になってしまいます。


 振り返って、COVID-19の重症化リスクと言われる持病は慢性炎症状態です。オーソモレキュラーの手法によって炎症の原因を取り除き、体の働きを取り戻し、炎症を収束させる力を強める努力が病気の克服に役立つと思われます。 



2020年7月21日

栄養素と感染症



 新型コロナウイルスの治療においてはウイルスの増殖を抑えることと免疫暴走による組織障害を抑えることが重要です。アメリカの8つの州の大学病院ならびに関連病院の救急医療、急性呼吸器疾患、感染症の専門家が組織した「新型コロナウイルス(COVID-19)最前線におけるクリティカルケア・ワーキンググループ」ではステロイドと高濃度ビタミン、抗凝固剤とその他の治療を組み合わせたMATH+という治療プロトコルを発表しています(註1)。国際オーソモレキュラー医学会ではビタミンやビタミン、マグネシウム、亜鉛、セレンなどの摂取推奨量を発表しています(註2)


 栄養素が感染症にどのような役割を果たしているか見ていきましょう。第一関門は眼・鼻・口などの侵入経路における粘膜防御です。粘膜は粘液で覆われ抗菌タンパクやIgA抗体などが見張っています。IgA抗体の産生にはグルタミンとビタミンが必須です。ビタミンは抗菌タンパクの発現や細胞接着をサポートしています。亜鉛も免疫において重要なミネラルです。例えばビタミンを代謝して活性化したりリンパ球が分裂して抗体産生細胞に分化したりするのを助けます(註3)。亜鉛やセレンは抗酸化剤としての役割もあります。


 最近大きく取り上げられているのがビタミンです。ビタミンがインフルエンザの感染を予防したというデータは複数発表されていました(註4)。カテリジシンやディフェンシンなどの抗菌タンパクや細胞接着蛋白の発現に関わる一方、炎症性サイトカインを抑制し抗炎症性サイトカインや制御性T細胞を誘導したりして過剰な免疫を制御する役割を持っています。25(OH)ビタミン濃度が高いほどCOVID-19の感染率・死亡率が低い傾向があるという論文発表も出てきました。(図)(註5)さらなる研究結果が待たれるところです。
Am J Clin Nutr 1998; 68(suppl):447S–63S.
Nutrients 2020, 12, 988
註5Aging Clinical and Experimental Research(2020)32:1195-1198


PCR検査について


 
 新型コロナウイルスを診断するSARS-Cov-2 PCR検査。どこまでを対象に何件くらい行えばいいのか意見が一致していないように見えます。新型コロナウイルスは発症前や無症状でも感染させるのが厄介な特徴で、感染を広げないためには流行地域においてある程度広範囲に網をかけて検査をすることは必要だと思います。特に病院や介護施設などでは発熱者や疑わしい方が出たら出来るだけ速やかに全員検査が出来る検査体制を整えるべきです。この場合の検査の目的は隔離し感染を広げないことにあります。今後はビジネス上の必要性から不完全ながら陰性証明のために検査をする場合も出てくるでしょう。


 では自分に症状が出た場合にいつ受診したらよいでしょうか。クラスター早期発見の観点から出来るだけ早くと主張する方もいるでしょう。しかし純粋に治癒という観点からすれば発症後しばらくは家で暖かくして寝ている方が無理に病院に出かけるよりも治りやすいですし、病院で感染させるリスクや別の感染をもらうリスクも低くなります。早期に治療を受けようと焦る必要はありません。なぜなら早くから薬を飲んだ方が良いかは確定しておらず、肺炎または臓器障害で重症化する時期は発症後日から10日のことが多いからです。悪化の共通点としてしつこい症状またはぶり返しがあります。日以上持続したら電話で相談しましょう。また持病のある方や強い症状の方は我慢する必要はありません。普段からかかりつけ医を持っているといざという時に安心です。

2020年7月1日

新型コロナウイルスへの向き合い方



 皆さまお変わりありませんか。連日感染者数が報道される中、不安を覚えている方も多いと思います。完全に封じ込めることが難しい新型コロナウイルスです。未知のウイルスに対する怖さや不安はありますが、栄養医学はこれまで感染症と立ち向かってきたのと同じ態度で新型コロナウイルスにも立ち向かっていこうと考えています。今回はウイルスに出会っても感染しにくくするためのヒントをお伝えしていこうと思います。


 新型コロナウイルスの感染経路は粘膜です。粘膜につくウイルス量を減らすことが予防の目的になります。無症状者や発症前でも感染力を持つことがこのウイルスの厄介な点です。こまめな手洗いは眼・鼻・口の粘膜につくウイルス量を格段に減らします。空気中のウイルス量を減らすための換気や飛沫を出さないためのマスクも効果があります。家や職場での感染も増えています。特に会話時、食べる時、眼・鼻・口を触る前にウイルスリスクをチェックする習慣をつけましょう。
 さて、今回の本題はウイルスに遭遇した時に感染を防ぐ栄養学的な工夫です。ウイルスの感染を防ぐには大きく分けて三段階の防御システムがあります。一つは粘膜防御、次は好中球やマクロファージによる攻撃、3段目は抗体によるウイルス特異的な免疫です。それぞれに栄養の充足が大きく関わっています。


 ウイルスの侵入口である粘膜には粘液とIgA抗体による防御機構が備わっています。十分な厚みの粘液層があるとウイルスはそれを突き破って侵入することが出来ません。グルタミンやビタミン、亜鉛、動物性たんぱく質に多く含まれる含硫アミノ酸などが重要です。ウイルスの侵入直後から働くのが好中球やマクロファージです。ウイルスの種類を問わず働くことが出来ます。ビタミンは鉄などと反応して殺菌を行うほか、好中球の移動能力を向上させます。抗体の産生時にはリンパ球の一種であるB細胞が速やかに分裂成熟し抗体を産生することが必要です。遺伝子増幅や蛋白合成のため亜鉛やたんぱく質などの需要が高まります。


 免疫は体を守るだけではありません。新型コロナウイルス感染症の病状の急激な悪化にはサイトカインストームと呼ばれる免疫暴走が絡んでいます。免疫の制御や抗酸化・抗炎症に携わる栄養素も欠乏しないように気をつけましょう。


 規則正しい生活をして睡眠をしっかりとること、ジャンクフードを避けてたんぱく質や野菜を摂ること、日光を浴びたり適度な運動で筋肉をつけたりストレスを回避したりして健康的な状態を維持することなどは免疫が健全に働くための基本です。日常生活を快適に過ごしながら出来ることを地道に実行していきましょう。