2022年9月1日

社会的時差ボケによる健康リスク

 

私たちの体には時計があります。概日リズム、週のリズム、排卵・月経のような月のリズム、季節のリズムなどを刻んでいます。以前は視交叉上核に一つの時計があると考えられていましたが、時計遺伝子の発見により肝臓や腎臓、肺や筋肉など末梢器官それぞれにも独自の時計があることがわかりました。各細胞の時計遺伝子群が周期的に発現したり、周期が減衰するのを抑えたりすることにより細胞の活動時間を決めています。各臓器の周期がバラバラにならないよう調和をとっているのが視交叉上核にある主時計です。


 時計遺伝子には個体差があり、朝型になりやすいか夜型になりやすいか、ショートスリーパーかロングスリーパーかはある程度遺伝的な影響を受けます。しかしながら体内時計は外界の影響で前にずれたり後にずれたりします。日々の生活では24時間と少しの概日リズムを24時間周期に合わせていますし、例えば地球の裏側に移動した時には、最初は時差ボケがあっても数日経つと適応します。光を浴びる時間、食事や体を動かす時間などが大きく時計を動かします。 


 朝の光は時計を前にずらします。外で日光を強めに浴びることが理想的です。夜の光は時計を後にずらします。部屋を暗くしていても、パソコン画面やスマホなどの光が目に入ると時計を後にずらしてしまいます。朝の食事、特に糖質は時計をセットするのに役立ちます。人口甘味料ではこの作用がなく、インスリンの分泌が体内時計を前に進めるのに役立っているようです。ご飯、野菜、魚を組み合わせた和食を朝に摂ると目覚めをすっきりさせたり時計を同調させたりする効果がさらに高まるようです。夜遅くの食事やカフェインは時計を後にずらします。運動については、朝に体を動かすことが時計を前にずらすのは当然として、夕方までの運動ならばリズムを維持する方向に働きます。19時過ぎの運動は時計を後にずらすようです。


 外界の昼夜とずれた生活をすることによって起きる体内時計の乱れを社会的時差ボケと呼びます。夜勤やシフト制の勤務、リモートワークや休校で外に出る機会が減り遅くまでパソコンやスマホの画面を見ていることや、SNS、オンラインゲームなどを深夜まで行うことなどにより社会的時差ボケになる人が増えています。体内リズムの周期がバラバラになったり周期自体が減衰して平坦化してしまい、コルチゾールやメラトニンの分泌が乱れたり、深い睡眠によって得られる成長ホルモンの分泌が妨げられたりします。夜型のリズムを持つ人は、肥満、うつ病のリスクが高く成績や精神衛生スコアが悪いという統計データが得られています。社会的時差ボケのリスクを認識し、時計を正す習慣を身につけることが大切です。