2011年7月10日

放射線障害対策点滴について


放射線障害を防ぐ対策は、体内に入った放射性物質を出来るだけ早く排出する方法と、放射線による電離作用(酸化作用)の害を防ぐ方法に大きく分かれます。たとえばの例としては、ヨウ素131を大量に吸入した時にヨウ素剤を飲んで、甲状腺にヨウ素131が入らないようにする方法があります。については体内に入った放射性物質の種類により使用する薬や処置の方法が違い、放射線専門医のマニュアルで決められています。一方、の酸化作用を防ぐ方法については薬の治療ではないためか、専門の医療機関では行われていないようです。

放射線障害対策点滴およびサプリメントは、抗酸化(=酸化を防ぐ)をめざした治療です。外から受ける放射線や体内に入る放射性物質の量が少ない方は、新たに始める必要はありません。でも放射線の影響がないと仮定して、あなたに酸化は起こっていないのでしょうか。

たとえば喫煙やストレス、内臓脂肪などは低線量の放射線を超える酸化ストレスをあなたに与えています。酸化ストレスが強い人はみな、日常的に抗酸化栄養素を摂ることが望ましいのです。一方で放射線量の高い区域で作業する人は自分の努力では防げない酸化が起こるのですから、対策をとってあげないとたいへん気の毒です。専門家は白血球減少や下痢などの健康被害がないか観察しなければ、長期にがんや甲状腺機能を監視すると言っています。このように現在の医療は、まだ起こっていないものには何もしない医療なのです。

栄養医学をご存知の皆様はどうすればよいか、ご自分で判断出来ますか? 酸化ストレスが強ければ、食べ物から得られる量よりもっと多くの抗酸化物質をサプリメントとして摂取する必要があります。

アドバイスが必要な方はいつでもご相談ください。

暮らしに役立つ栄養療法
-熱中症対策!-
~汗をかく仕組み~


今年も暑い夏となりそうです。節電のためエアコンをつけずに頑張っているご家庭も多いことでしょう。暑い夏だった昨年は熱中症で救急車のお世話になった方が多数いらっしゃいました。熱中症は梅雨の合間や梅雨明けに、急に気温が上がった時が特に危険です。ぜひ皆さんも早くから熱中症対策を心がけましょう。

熱中症対策は「水分・塩分・無理せず冷やす」の3本柱です。汗は体温調節に大切な仕組みです。汗が蒸発するときに気化熱が奪われて体温が下がります。扇ぐと涼しいのは皮膚の周囲の湿度が下がるので、より蒸発が速くなるからなのですね。汗を拭きすぎると効果が薄れてしまいますので要注意です。

汗をかく時は、体温上昇を感知大脳から指令交感神経汗腺と信号が伝わります。汗腺ではポンプ(Na-K-ATPase)を働かせて汗のもとを作り出します。最終的な汗には水分ともに塩分(NaCl)とカリウム(K)が含まれています。

汗に含まれるナトリウムとカリウム、水分を補うことはとても大切です。しかし必要なのはそれだけではありません。汗をつくるポンプを動かすためにはエネルギーが必要です。汗をかくにもかなりのエネルギーを使っています! 道理で疲れる訳ですね。エネルギーを作るためには、カロリー源のほかにビタミンB群、ビタミンCなどが使われます。ですから水分と塩分ばかりに気をとられずにしっかり食事を摂ることが重要です。

熱中症対策にスポーツ飲料が推奨されることがありますが、飲み物で糖分を摂る必要はありません。水かお茶と梅干しおにぎりなどちょっと濃い味のご飯で十分です。糖尿病や低血糖症の人は、おにぎりの代わりにアミノ酸やたんぱく質でカロリーを摂りましょう。そしてビタミンを摂るために夏こそ肉や魚、野菜をしっかり摂りましょう。熱中症を防ぐとともに夏バテ防止にもなりますよ。

夏は脱水による脳梗塞が増える時期ですね。次回は脳梗塞を防ぐコツについてお話ししましょう。

食事療法の嘘?本当?
-糖質制限食の利点-


私たちが多くの人に推奨している食事療法に糖質制限食があります。まだまだ批判の多い糖質制限食ですが、推奨するにはきちんとした根拠があります。今回は糖質制限食の利点について説明してみましょう。

健康を達成出来る食事療法は次の条件を満たしているはずです。

 

          体が必要としている栄養素を十分摂れること

          代謝に害になる食べ方をしないこと

 

糖質制限食との関係を見てみましょう。日本の食糧事情では体の事情で食べられない人を除けばカロリーは足りています。カロリーを担うのは炭水化物・糖質・脂質、そして一部たんぱく質です。カロリーで計算できないものに必須栄養素があります。必須栄養素とはたんぱく質、ビタミン、ミネラルといった体を動かすための栄養素です。カロリー計算で食事量を減らすと必須栄養素がかなり減ります。

糖質制限食はカロリーの多くを占める炭水化物を減らす代わりに必須栄養素を含む食材を豊富に食べるので栄養的にはかなり充実します。

については、食後の血糖値の急上昇が代謝に悪影響を及ぼすことが明らかになって来ています。インスリンの過剰な分泌により内臓脂肪を増やすこと、活性酸素を増やして動脈硬化を起こすこと、自律神経のバランスを乱すこと、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどの尿中排泄を増やすことなどなど数え上げればきりがありません。糖質制限食では食後の高血糖を防ぐことが出来ます。

糖質制限食による脂質の摂りすぎや、コレステロールの上昇を心配する方もいるようです。実際に糖質制限食が脂質代謝にどのように影響するかについて次回説明することにしましょう。

ビタミンAの話③
-ビタミンAの働き-


ビタミンAは分化に関わる遺伝子を調節します。分化とは何でしょう。簡単に言うと各々の細胞が各々の役割にふさわしい機能を発揮することです。高等生物は分化によって分業を可能にしました。皮膚は皮膚として、心臓の筋肉は心臓の筋肉としてきちんと働かないと大変困ります。そのために発生のある段階から細胞はその役割を果たすためのたんぱく質を作るようになり、ふさわしい形と機能を備えていきます。成長期が終わっても、幹細胞(元になる細胞)からの細胞分裂は続き、分化して機能を持つ細胞に変わります。分化した細胞には分裂する能力がないのが普通です。

正常に分化することがなぜ重要かを粘膜と皮膚を例にあげて説明してみましょう。粘膜は常に粘液を分泌しています。粘液は表面の乾燥を防ぎ、粘液内のラクトフェリンやリゾチームは感染を防ぎます。ビタミンAが不足すると粘膜細胞が角化して粘液が減ってしまいます。眼球が乾燥するドライアイがその典型例です。ビタミンAの助けを借りて合成される糖たんぱく質のムチンは物理的なバリアを形成してやはり感染を防いでいます。このようにビタミンAが不足すると感染への防御機構が弱くなります。

ニキビの一部は毛孔の異常角化が原因で、ビタミンAが少し欠乏しただけでも起こります。さらにビタミンAが欠乏すると皮膚が乾燥してざらざらになりアトピー性皮膚炎と区別できない状態になります。

高度のビタミンA欠乏によって起こる夜盲症は現在ではほとんどいないと思われていますが、暗順応が低下している人は結構多いようです。網膜で明暗を感じる桿体細胞はレチナールとオプシンというたんぱく質の結合により信号を出しています。パソコンやゲーム機などの光刺激によりビタミンA(レチナール)消費量は格段に増えています。

ビタミンAは精子や胎盤の正常な形成にも役立っているので不妊症の体質改善にも役割が期待出来ます。また最初の母乳(初乳)には大量のビタミンAが含まれているので、新生児の発達にも重要です。

分裂が盛んな細胞に分化を誘導すると性質が変わります。実際にビタミンAの誘導体であるオーストランスレチノイン酸は急性前骨髄性白血病の治療(分化誘導療法)に用いられて好成績を修めています。また子宮頚癌検診などで前がん状態(ClAss IIIなど)と診断された場合には積極的にビタミンAを試してみてもよいのではないでしょうか。もしビタミンA欠乏が原因だった場合には再検査時に正常細胞にもどっている可能性もあるからです。

このようにビタミンAはまだまだ大きな可能性を秘めたビタミンです。今後のさらなる研究が待たれます。

 

栄養療法に何が出来るか-生・老・病・死-
-がんの自然史-


東大病院で放射線治療を担当しているteam nakagawa(中川恵一先生およびスタッフの皆様)は311日の福島第一原発の放射能漏れ事故以来、忙しい診療のかたわらツイッターやブログで情報を発信し、現地の放射線被ばく状況を調査したり住民と対話したりしながら具体的な対策を提言してきました(放射線について有用な情報が載っております。興味のある方はぜひご覧ください)。

そのブログに「そもそもがんとは何か」と題してがんとはどのようにして起こるか、私たちはがんをどのように考えたらよいかということも述べてあります。治療を受ける一人一人が病気の本質を理解し治療法を選ぶ時代が来ていることを感じます。そこで栄養医学はがんをどのようにとらえ、どのように対応しようとしているかを述べてみることにしました。(ここから先の内容は中川先生とは無関係です。予めご了承ください)

まず、がん細胞は周囲からのコントロールを失って増殖する細胞ということはご存知ですね。ではがん細胞はどのくらい出来にくいかということを考えたことはありますか? がんが発見されたとき、多くの方は「直前にがんが出来た」と考えがちですがそれは全く違います。最初の1個の細胞から目に見える大きさになるためには109乗個程度まで増える必要があり、そのためには(一部の特殊ながんを除き)約20年もの期間がかかると考えられています。

 


がん細胞に変わるには、いくつものステップが必要です。まずDNA(遺伝子)のうち分裂や分化を制御する場所に変異が起こること(一つではなく数個)、外界からの情報を伝達する細胞膜と情報伝達機構になんらかの異常が起こることが最低条件となります。細胞に異常が起きるとほとんどはがん細胞になる前にアポトーシス(細胞死)を起こして消えてしまうか、免疫機構がしっかりと働いていれば免疫細胞によって除かれてしまいます。がん抑制遺伝子といって無制限の増殖が起こらないように抑える仕組みもあります(この遺伝子に生まれつき異常がある方はがん細胞が出来る確率が高いことがわかっています)このように私たちの気付かないうちにがん細胞は出来ては消滅を繰り返しています。

がん細胞が目に見えるほど大きくなる背景には、遺伝子や細胞膜の異常が積み重なるだけでなく、不均一(・・・)()がん(・・)細胞(・・)集団(・・)の中でちょっと凶暴な(増殖速度が速く防御機構を突き破りやすい)細胞が現れ、がん細胞の力が免疫力を上回ってしまうという要素が必要です。皆さんは見つかったあとのがんの様子しか知らないので凶暴な部分だけを見ることとなりとてつもなく恐ろしいものと思ってしまうのですね。

がんの予防は見つかる前が重要ということになります。次に小さいうちに発見すること、発見した時にすでに大きければ、がん細胞を減らしつつ、いかにがんと共生するかが治療のかぎとなります。

次回は、具体的にがんの予防と治療について説明します。