2023年11月1日

ピロリ菌は万病のもと

 

ピロリ菌が胃がんのリスクを高めるというのはかなり認知されるようになってきました。胃潰瘍や十二指腸潰瘍もピロリ菌をみつけて除菌すると治るということも知っていると思います。一方、無症状の方はピロリ菌がいないと思い込んでいないでしょうか。一昔前は70%もの方がピロリ菌を持っていました。水道水の普及やピロリ菌の除菌によって若い人の感染率はかなり減って10%程度になってきているようです。それでも両親のどちらかがピロリ菌に感染していた場合、ピロリ菌の感染率が高くなります。自分は無関係と思わずにピロリ菌のチェックをしてみましょう。というのも、ピロリ菌の感染は胃以外にもたくさんの疾患に関連しているからです。

ピロリ菌が関連していると考えられている疾患は、萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、胃がん、胃MALTリンパ腫などの胃の疾患、特発性血小板減少性紫斑病、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性蕁麻疹、自己免疫疾患など多岐にわたります。なぜこんなに多くの疾患に関係するかというと、毒素を細胞内に注入したり周辺にまき散らしたりするからです。ピロリ菌の毒素は慢性的な炎症を惹起したり、異常な免疫活性を起こしたりします。細胞内に注入された毒素は複数の経路で細胞増殖を促進したり、がんを抑制する機構を働けなくしたりします。ピロリ菌が住んでいる胃ではビタミンCの濃度が大きく低下します。萎縮性胃炎が進んでしまった人でも、ピロリ菌の除菌はがん化のリスクを少しでも下げるために意味があると考えられています。

 ピロリ菌は自分が住みやすいように胃酸を中和する働きを持っています。さらに周辺の細胞を腸粘膜に似た性質に変えていって胃酸や消化酵素の分泌を減らします。このような変化はSIBO(小腸内細菌異常増殖症)の原因になるので、SIBOかなと思ったら必ずピロリ菌のチェックをしましょう。ピロリ菌感染によって胃酸や消化酵素の分泌が減少すると、口腔内から入った菌を胃でしっかり死滅させることが出来ず、小腸上部の細菌増殖の原因となります。胃はたんぱくの消化に重要な働きをしているため、消化酵素の分泌低下はたんぱく質の消化不良につながり腸内の未消化物を増やします。小腸に過剰に存在する菌が未消化物をエサにさらに増殖します。

ピロリ菌の検査には胃カメラによる培養や組織検査、ウレアーゼ呼気試験、ピロリ菌抗体検査などがあります。ただ、これらの検査でも見つからないピロリ菌感染が一定程度存在します。ピロリ菌はバイオフィルムを形成しやすく、除菌をして陰性と判定されても潜在的に生息し続ける場合もあります。便中の遺伝子を検査するGI-MAP検査は、ピロリ菌検出の感度がよく、これらの潜在的なピロリ菌感染を見つけることが出来ます。GI-MAP検査ではピロリ菌の抗生物質感受性や保有する毒素遺伝子も検出してくれます。胃もたれが続く方、SIBOが治らない方は一度検査をしてみましょう。またピロリ菌を除菌した後も定期的な胃がんのチェックを忘れずにお願いします。