今回は必須脂肪酸とプロスタグランジンの話です。
魚の脂が体に良い、とかEPAやDHAは血液をサラサラにする、とか言いますね。サラサラという表現が適切かどうかはわかりませんが、EPA(エイコサペンタエン酸)の割合を増やすと血管や血球の表面の性質が変わります。
脂質が単なるしきりと考えられていたのは昔の話で、今は細胞膜の脂質がダイナミックな働きを担っていることが次々わかっています。中でも脂質からプロスタグランジンなどのホルモン様物質が作り出されていることは驚きの発見でした。
その中の一つがトロンボキサンA2(TXA2)という物質です。細胞膜に存在するアラキドン酸から作られ、血小板を凝集させたり血管を収縮させたり気道を収縮させたりします。それに対抗する物質がやはりアラキドン酸から作られるプロスタグランジンI2(PGI2)です。トロンボキサンA2は主に血小板で、プロスタグランジンI2は主に血管の壁の細胞(内皮細胞)で作られます。両方が釣り合っていれば、出血もせず血栓も出来ずによい状態が保たれるのですが、内皮細胞が傷ついたりしてプロスタグランジンI2の分泌が減ると血栓が出来やすくなります。
血小板の膜にEPAが多いと、トロンボキサンA2の代わりにトロンボキサンA3(TXA3)が出来ます。TXA3には血小板凝集作用がほとんどないため、内皮細胞が傷ついても血栓が出来にくいという仕組みです。
種子などから油を精製する技術が進化した結果、食品以外から植物油を摂る量が増えてしまってリノール酸やアラキドン酸の摂取量に比べてEPAやDHAの摂取比率が減ってしまっています。アラキドン酸から出来るプロスタグランジン類は炎症やアレルギー反応にも関係しているので摂取比率を変えて拮抗関係を正常化することが様々な病気の予防に役立ちます。