2010年3月1日

食事療法の嘘?本当?
-「コレステロールが高い人はコレステロールを食べてはいけない」は本当か-


 コマーシャルは毎日のように「動脈硬化の予防にコレステロールを下げましょう」と唱えています。でもコレステロールを食べるのを我慢し薬でコレステロールを下げれば問題は解決するのでしょうか?

 動脈硬化の起こるメカニズムについて解説しましょう。

 体が活動すると必ず活性酸素が出ます。活性酸素は危険なので普通はただちに消去されます。ところが年をとったり抗酸化ビタミンが不足したりすると消去しきれず血液中や血管壁に酸化が起こります。酸化が起こるとたんぱく質が変形して本来の機能を失います。

 例えば蛋白と脂質の複合体であるリポ蛋白やコレステロール受容体が酸化すると、うまくコレステロールを受け取ることが出来なくなります。酸化したLDLコレステロールは不良品としていつまでも血液中を回り続けます。一方細胞は必要なコレステロールを受け取ることが出来ず「コレステロールを発注し続け」るので、肝臓はどんどんコレステロールを作って送り出します。ほかのリポ蛋白(脂質を運ぶ蛋白)に比べてLDLコレステロールは酸化しやすいので結果としてLDLコレステロールが上昇することになります。

 かなり栄養不良にならない限り、肝臓はコレステロールを合成します。食事療法の結果コレステロールが下がったときにはかなりひどい栄養不良になっています。しかも細胞は必要なコレステロールを受け取ることが出来ないという悲惨な状況になります。

 コレステロールを適正にするには、原因となる活性酸素を消去する必要があります。そのためには抗酸化ビタミンはもちろんのこと消去システムを強化するタンパク質や鉄、銅などのミネラルもしっかりと摂取することが大切です。

 「コレステロールが高い人はコレステロールを食べてはいけない」とまだあなたは思いますか?

 

鉄の話 ①


私たちの体になくてはならない鉄は「金属」です。しかも反応性の高い「遷移金属」です。私たちの体は反応性の高い鉄を代謝反応に利用することで様々な利益も得ましたが、鉄が体に害を及ぼす「両刃の剣」であることもよく知っていました。その結果体に害を及ぼさないように23重の防御機構をめぐらしたのです。

金属と言っても、鉄粉が血液中に浮かんでいる訳ではありません。体内の鉄は「ヘム」という構造やたんぱく質にしっかりと包み込まれています。吸収された直後には小腸の上皮細胞内のフェリチンと結びついて一度貯蔵され、「鉄が必要だ」という信号が来ると血液中のトランスフェリンに結びついて運ばれます。常にたんぱく質からたんぱく質への受け渡しが行われて外にむき出しになることは絶対にないのです。たまたま腸に鉄が過剰に入ってきた場合にはヘモジデリンという重合蛋白を作って小腸の細胞ごと2-3日以内に便から外に排泄してしまいます。つまり口から摂っている限り鉄は過剰になることはありません。

鉄イオンを注射した場合はどうでしょう?血液中のたんぱく質は可能な限り鉄を結合しようとしますがたんぱく質が不足していたり急激に鉄が入ってきたりした場合はむき出しの鉄イオンが活性酸素を作り出し生体に傷をつけることになります。何かを与える場合には「腸という生体の調節機構を通すこと」が重要です。

 

「鉄は口からヘム鉄として」

 

 次回は、鉄の働きについてお伝えします。

科学としての医療


このコラムでは、私たちが実践している栄養療法の根拠となっている分子整合栄養医学について少しずつお話していこうと思います。まず第一回の今回は実証科学である分子整合栄養医学の姿についてお話ししようと思います。 

 分子整合栄養医学は「分子の目で体や病気を解明しよう」とする科学です。ミクロの眼で体内を眺め、遺伝子やたんぱく質、細胞内外の信号伝達にかかわる物質、代謝などを長年研究し、病気の仕組みや遺伝による個人差などを解明してきました。

 その間、たくさんの薬が開発されてきましたが分子整合栄養医学が出した結論は「体に本来存在する物質すなわちたんぱく質や脂質、ビタミンやミネラルなどを使った治療」に勝る薬はないというものでした。体が本来知っている物質を使えば予想外の反応がおこることがなく、体の調節機構により副作用が少なくなるからです。更に1990年以降の研究によってビタミンやミネラルにはこれまで知られていた以上の治療効果があることがわかってきました。

体の仕組みは奥深く、まだまだわかっていなことがたくさんあります。現在行われている治療よりも更によい治療が開発されることもあれば、現在行われている治療の間違いが判明することもあるでしょう。「常識と反する」というだけで無視や攻撃を受けてきた治療法が後に正しいと分かったことは少なくありません。一般に研究成果が医療に生かされるまで40年かかると言われています。その40年を少しでも縮めること、出来るだけ多くの人々が科学の恩恵を受けることが私たちの目標です。私たちの試みている分子整合栄養医学が世界のスタンダードになることを目指してこの1年進んでいきたいと思います。

 

「真の治療とは生命力へのプラスになるようなものでなければならない(Hans Carossa)」