2023年9月1日

自律神経の可視化

  検査に異常がないのに体調が悪い、眠れない、不安で落ち着かないなどの状態を自律神経失調症と表現したりします。自律神経を評価する指標はあるのでしょうか。


 交感神経が緊張すると脈が速くなったり呼吸が浅くなったりします。質の良い睡眠はレム睡眠やノンレム睡眠がある規則で表れ、睡眠が一定の深さまで至ることを指します。これらの指標をモニターするために開発されたのがウェアラブルデバイスです。モニターする内容はデバイスの種類によって異なりますが、心拍数や呼吸数、体の動きなどを計測し健康に役立てようとしています。


 医療分野では古くから24時間心電図計でR-R間隔を測定していました。R-R間隔とは心拍と心拍の間の時間を指し、自律神経が正常に働いている場合は適切な変動を生じます。糖尿病などで自律神経の機能が低下すると変動が少なくなることが知られています。交感神経の緊張も変動を低下させ心血管疾患のリスクを高めることがわかっています。 睡眠時無呼吸症の診断では呼吸、脈波、酸素飽和度、胸や腹部の呼吸センサーなどを装着し睡眠時の気道の閉塞や無呼吸、低呼吸を調べます。睡眠時無呼吸症は、高血圧や虚血性心疾患などの病気になりやすく日中の眠気で日常生活に支障が出ることもあります。治療出来る病気なので、疑った場合は積極的に検査をしてみましょう。


 簡易の装置で自律神経や睡眠の状態を調べたい人向けに、当院では自由診療で睡眠ストレス解析検査も始めました。胸につけた小さな装置で心拍数や呼吸数、体の動きなどをモニターし、交感神経の緊張状態や睡眠の質などを解析します。解析課程は一部ブラックボックスですが自分のストレスや睡眠状態を評価し生活改善に生かしたい方はぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。

ビタミンKの話

  今回はビタミンKの話です。ビタミンKは脂溶性ビタミンの一つで植物によって作られるビタミンK1(フィロキノン)と微生物によって作られるビタミンK2(メナキノン、MK-n)があります。nは側鎖の長さを示す数字です。卵や鶏肉など動物性食品にはMK-4が多く含まれ納豆にはMK-7が多く含まれます。ビタミンKの効果は1929年血液凝固を正常に維持するビタミンとして発見されました。凝固因子(血液を固めて出血を止める因子)は肝臓で作られ、そのうち、第IIVIIIXX因子とプロテインC,プロテインSが合成のためにビタミンKを必要とします。ワーファリンはビタミンK依存性の酵素(ビタミンK依存性エポキシドレダクターゼとビタミンKキノンレダクターゼ)を強く阻害し、凝固因子の凝固活性をなくすことによって血栓形成を予防するお薬です。


 その後、骨粗鬆症を予防する機能や動脈石灰化を防止する機能が発見されました。骨代謝に関わるオステオカルシンや、骨と血管に存在するマトリックス蛋白はビタミンKを必要とするたんぱく質です。オステオカルシンは骨形成を活発にするだけでなく膵臓のインスリン分泌や脂肪細胞のアディポネクチンにも関わっているというデータが出てきました。マトリックスGla蛋白は動脈の石灰化を予防する働きが知られています。


 ビタミンKはこれらのたんぱく質のグルタミン酸がγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)に変える反応の補酵素として必要です。ビタミンKが不足すると、グルタミン酸がGlaになれずにたんぱく質が働けません。骨粗鬆症マーカーのucOC(カルボキシル化していないオステオカルシン)はビタミンK不足を示すマーカーです。


 体内で活性化されたビタミンKが脳神経細胞を酸化ストレスから防いだり遺伝子発現に関わったりなど、骨や血管弾力維持以外のビタミンKの新たな作用の研究が進んでいます。ビタミンKのさらなる可能性が期待されます。

健康寿命の延伸

  厚生労働省の発表によると寿命は年々伸びて2020年の日本人の平均寿命は男性が8156歳、女性が87.71歳となっています。しかし、平均寿命と健康寿命の推移をみると、男性では9歳程度、女性では12歳程度の差がありその差は縮まっていません。健康寿命とは自立して生活が出来る期間のこと、他人の手を借りるのは決して悪いことではありませんが、人生の最後の10年もの間足腰が弱って寝たきりになったり認知機能が低下して一人で生活することが難しくなったりするのは残念なことです。


 抗加齢医学の分野では、早い老化は病気であり予防できるという考え方が主流になってきています。細胞老化の原因には糖化、酸化、炎症など色々ありますが傷ついた細胞ががん化しないように細胞分裂を停止するシステムがあることがわかっています。このような細胞は老化細胞と呼ばれ通常ならアポトーシスで自死したり免疫細胞によって除去されたりします。ストレスが積み重なったリ栄養が欠乏したりして体の機能が低下すると老化細胞が除去されずに臓器に蓄積し、サイトカインを出すようになります。サイトカインは慢性炎症を誘発してさらに老化が進みます。


 心筋細胞や神経細胞のように細胞が入れ替わらない組織において、細胞を新品に保つシステムにオートファジーがあります。オートファジーは細胞内のたんぱく質や消化器官を膜で包んで消化分解し、新たにたんぱく質を合成するリサイクルシステムのことです。オートファジーの活性化には、栄養を入れるタイミング、絶食するタイミングが重要のようです。個々の体の状態にもよりますが、朝はたんぱく質などの栄養をしっかり摂り、午前中に運動し、夕食は早め軽めにすませて、そこからしっかりと空腹時間をつくります。


 空腹時間が長くなると、脂肪をエネルギー源とするケトン体モードになります。ケトン体モードはサーチュイン遺伝子の活性化に役立ちます。サーチュイン遺伝子活性化によって作られたたんぱく質は遺伝子の修復や細胞をストレスから守る作用などがあり、抗老化に関係すると考えられています。サーチュイン遺伝子活性化は眠りの質にも関係します。


 高齢女性にとって骨粗鬆症は寝たきりリスクを増やす大きな要因です。特に大腿骨頭周辺は骨粗鬆症の変化が急激に起きやすく、骨折をしたあとの影響が強いので注意が必要です。たんぱく質、カルシウム、マグネシウム、ビタミンDK摂取と適切な運動によって予防を心がけましょう。骨粗鬆症の治療薬も多彩になっています。適切なタイミングで骨折を予防できるよう骨密度や骨代謝マーカーを使った定期健診を受けましょう。


 QOLを低下させる動脈硬化、認知症、骨粗鬆症など自分特有のリスクを見極めて健康寿命を延伸しましょう。