2011年2月10日

食事療法の嘘?本当?
-コラーゲンには鍋料理?-


12月、1月と寒い日が続きましたね。コラーゲンたっぷりの鍋や煮込み! 想像しただけで温まります。さて、食べたコラーゲンがそのまま体のコラーゲンになると思っている方はいませんよね。思っていた方は分子整合栄養医学のイロハを学び直しましょう。

コラーゲンは大きなたんぱく質分子です。大きな分子はそのままでは小腸の壁から吸収されることはありません。アミノ酸の細かいピースに消化されてから吸収されます。アミノ酸には「コラーゲン用」などという目的地のタッグが付いているわけではありませんから、アミノ酸の需要が高いところ、優先順位の高い所に配置されていきます。つまり食べたコラーゲンが生体内でもコラーゲンになるという保証はどこにもないのでまずは材料のアミノ酸の摂取量を増やすことが大切です。

さて、コラーゲンの材料になるアミノ酸が無事に関節や皮下組織のコラーゲン合成細胞(線維芽細胞など)にたどり着いたとします。必要なコラーゲンはその場で組み立てられて周りの組織に組み込まれていきます。コラーゲンを合成するにはまず「合成しなさい」という指令が必要です。遺伝子のDNAから該当する部分のメッセンジャーRNAが出来ます。たんぱく質合成装置ではメッセンジャーRNAを鋳型にしてアミノ酸が順番につなぎあわされていきます。コラーゲンの場合グリシン―XYXYはそれぞれアミノ酸を指す)の繰り返し構造になっています。その後両端が切り取られ3本が縄のようにより合わさり、鎖の中や鎖と鎖の間に架橋構造が出来るといった複雑な過程を経てやっと正常に機能するコラーゲンが出来上がります。

つまり、目的の場所に材料が届くことと目的の場所で合成できることの両方が大切です。反応には酵素がかかわっていますから酵素に必要なたんぱく質の合成と補酵素である鉄やビタミンCが必要なのです。合成能力を高めておくことがすなわち若さの秘訣です。

鍋料理ではコラーゲンだけでなくたんぱく質や核酸、ビタミンC、ヘム鉄なども豊富に摂ることが出来そうです。新鮮な栄養素たっぷりの材料を一緒に煮込んで体も心も温まりましょう。

ビタミンAの話①
-発見の歴史と悲運-


ビタミンの多くは欠乏症の原因として発見されています。発見された順にABCと命名していったのでビタミンAは最初に発見されたビタミンということになります。

ビタミンAは眼球乾燥症の原因を解明している時に見つかりました。構造が決定されたのは1931年のことです。その後視覚における機能が明確になりレチナ(網膜)を語源としてレチナールと命名されました。ビタミンA欠乏で夜盲症が起こることはご存知でしょう。

ビタミンAと光感受のメカニズムは次の通りです。オプシンというたんぱく質に11-シスレチナールが結合してロドプシンという構造を作ります。ロドプシンに光が当たるとレチナールがトランス型に変わりたんぱく質との親和性が低下して細胞のNA透過性を変え電気信号を送ります。光を電気信号に変える要がビタミンAです。最初の発見の経緯からビタミンAは「眼のビタミン」と思っている方も多いでしょうが、眼球結膜だけでなく全身の粘膜や皮膚の正常な分化、粘液の分泌などに重要な役割を持っています。

さて、ここでビタミンAにとって不運な出来事が起こります。探検隊が北極グマの肝臓を食べた時に中毒症状を起こしました。確認のために北極グマの肝臓を犬に与えると肝臓に障害が起こりました。「ビタミンAを過剰に摂ると副作用が起こる」という評価はここから生まれました。一度定着した説を覆すことは難しく、その後は一度も副作用に関する再評価が行われることがありませんでした。

1960年代にビタミンA結合たんぱくが発見され、その後抗腫瘍作用に関する研究が発表されるとビタミンAへの期待がにわかに高まります。1987年にはレチノイン酸(ビタミンA代謝物)に対する核内の受容体が発見され遺伝子の発現を制御していることがほぼ確定的になりました。1996年オスロの国立極地研究所が北極グマの肝臓から内分泌攪乱物質を発見しようやくビタミンA過剰による副作用の汚名が返上されたのです。

ビタミンAの潜在的な可能性には計り知れないものがあります。アトピー性皮膚炎や花粉症などの皮膚・粘膜に関わる疾患の改善、急性前骨髄性白血病の分化誘導療法、がんの予防作用など必ずや人類の幸福に貢献するはずです。ところが「ビタミンA125000単位以上摂取すると危険である」という誤った教科書の記載がなかなか書き変わることがないので、高容量のビタミンAサプリメントを使用する機会が狭まっています。

次の回では、ビタミンAはどのように吸収、貯蔵、運搬されているのか、遺伝子制御に関わるレチノイン酸(ビタミンAから出来る物質)はどのように濃度が制御されているのか、といった基礎知識を説明します。体の制御機構を理解すればビタミンAの安全性について必ず納得していただけるものと考えています。

サプリメントの安全性


この度これからサプリメントを飲まれる方へという小冊子が完成いたしました。これは栄養療法を始めたばかりの時に直面しやすい様々な問題や疑問をまとめたものです。

分子整合栄養医学に基づいたサプリメント療法を実行する方は、栄養医学についてよく理解しておく必要があります。そうはいってもほとんどの方は膨大な学問を習得する前に実践を開始しなければなりません。栄養療法の最初でつまずいてせっかくよくなる機会を逃してしまわないように、そうした願いをもとにこの冊子は作られています。

分子整合栄養医学の考えで製造したサプリメントは安全だと説明していますが、その根拠はサプリメントに含まれたすべての成分を栄養素として体が認識できる限り、利用の仕方や過剰の時の処理の仕方を知っているからです。その範囲において一日所要量をはるかにこえた栄養素を摂取しても極めて安全だと言えます。しかし、安全でも不快な症状や好ましくない変化が起こることがあるということもあらかじめ知っておいて欲しいのです。

説明しましょう。栄養が浴びるほどに入ってくると、栄養が足りないために眠っていた機能が突然動きだします。元気になるだけならよいのですがいくつかの変化には不快なものが含まれています。これまでぼんやりしていた症状が突然派手になり強く感じるようになるとか、隠れていた症状や隠れ脂肪肝が表に出たりするとか、食事内容の変更や突然増えた栄養素、ゼラチンカプセルなどに消化管が戸惑って、胃がもたれる・ガスが多く出る・便通が変わるなど消化管の調子がかえって悪くなったように感じるなどです。最初の栄養欠乏が強い方ほど消化管の状態が整って体の調整機能が追い付き症状が落ち着くために、(つまりサプリメントを飲める体の状態なるまでに)時間がかかるのです。本格的に改善するのはそれからさらに期間を要します。

初めは勝手がわからず不安になりやすい時期です。そして最初の時期はまさに変動の嵐の連続です。この時期に起こりやすいことを限られた診察時間の中ですべてをお話することも理解していただくことも到底無理です。そこで多くの方に起こる可能性があることや注意事項をまとめて冊子の作成をいたしました。

個々人の反応は様々なので冊子に書いてないことが起こることもあるでしょう。その時には ぜひ気軽に質問していただき、こちらも時間の許す限りお応えしようと思っています。分子整合栄養医学という共通言語を通して、対話を通した相互理解をこれからも積み重ねていきたいと思っています。
 

私の行いは大河の一滴にすぎない
でも何もしなければ
その一滴も生まれないのです

                マザー・テレサ