2011年3月10日

食事療法の嘘?本当?
-ダイエットは代謝改善-


ダイエットの定義は「健康のための食事療法」ですから、健康になるということが最も大切な目的です。代謝が正常化する結果として適正な体重になります。太り過ぎている人は痩せ、痩せすぎている人は筋肉や骨が充実して強くて引き締まった体になります。

特定健康診査(いわゆるメタボ検診)で腹囲を測定することになったのはウエスト/ヒップ比が内臓脂肪と相関があるというデータが根拠になっています。ただし腹囲は体格や腹部のガスなどの影響も受けるので不正確ですから、血液検査で代謝の状態を調べるのが最も確実でしょう。

一見痩せて見えて体重がそれほど多くなくても肝臓に脂肪がたまっていたり内臓脂肪が多かったりする方は隠れメタボリック症候群です。内臓脂肪が増える背景には必ず代謝の問題があります。代謝を改善すべく正しいダイエットに励んだ方がよいのです。

内臓脂肪の原因は急激な血糖値の上昇と必須栄養素の不足です。カロリー源がエネルギーに変わるには酵素とビタミン、ミネラルが必要ですね。炭水化物中心の食生活ではカロリー源がどんどん入ってくるのにエネルギーに変換する装置が止まった状態になっています。また糖分や炭水化物を食べた後は血糖値が急激に上がるために、インスリンが過剰に分泌されます。インスリンは「蓄えさせるホルモン」ですから細胞にとりこまれたぶどう糖は貯蓄型の中性脂肪に変わって脂肪細胞が肥大化していきます。誤解している人が多いのですが炭水化物を過剰に食べると脂肪が増えるのです。脂肪を食べすぎて脂肪が増えているのではありません。(お断り:肥満遺伝子の影響で痩せにくい方は摂取カロリーも減らす必要があります。)

脂肪細胞が肥大化すると分泌するアディポサイトカインのバランスが変わり高血圧、高尿酸血症、脂質代謝異常が起こりやすくなります。ひいては動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞などが起こりやすくなります。

絶食を中心とした急激な減量は脱水と血栓ができやすい状態を引き起こすので注意が必要です。食べずに急激に運動をしたりすると心筋梗塞になって倒れることがあります! 健康のためのダイエットのはずだったのに本末転倒です。たんぱく質とビタミン、ミネラルをたっぷり含んだ食材と水分を摂り、炭水化物と糖質を減らし、食後に軽く体を動かしたり散歩したりする程度の運動でゆるやかに体重を減らしていきます。

美しさのために痩せたい人も必須栄養素をしっかり摂りましょう。肌がボロボロ、髪がガサガサ、目がうつろでは痩せても美しいとは言えません。美しさは心身ともに健康な内面から! ですよね。

ビタミンAの話②
-貯蔵・運搬・調節-


ビタミンAは脂溶性ビタミンです。脂溶性なので血液中を自由に流れることは出来ません。常に特定のたんぱく質と結合して移動します。少々専門的な説明になりますが、その過程を見てみましょう。

吸収されたビタミンAは小腸の細胞内でレチノール結合蛋白(ビタミンAを運ぶ蛋白、RBPともいう)と結合します。その後カイロミクロンという脂肪を運ぶための運搬体に入り、脂質と一緒に肝臓まで運ばれます。肝臓の中の貯蔵場所は伊東細胞(stellate cell)という小さな組織だと考えられています。

伊東細胞は肝臓の毛細血管(類洞)の内皮細胞と肝細胞との隙間(disse腔)に存在していて、顕微鏡でみると脂肪のしずくのように見えます。解剖の際に肝臓を調べると、伊東細胞のビタミンAは欠乏状態にある方が多く、潜在的にビタミンAが欠乏している人は多いと考えられています。また、ビタミンAが欠乏すると伊東細胞は性質が変わって肝臓の線維化(肝硬変)を促進することが知られています。

 


肝臓から他の組織へ運ばれる時にもビタミンARBPに結合します。RBPはさらに大きなたんぱく複合体を形成して右図のような形で運ばれます。ここで注目するポイントは、ビタミンAがたんぱく質に覆われていて、血液と接していないということです。

では次に、細胞内に入ったビタミンAはどのように利用されるか見てみましょう。ここではビタミンAから作られるレチノイン酸について説明します。レチノイン酸は細胞の核(DNAのある場所)にある受容体に結合して、特定の遺伝子の発現を調節します。ご存知の通り遺伝子は細胞にさまざまな命令を出していますので、私たちの生命活動に密接に作用しているといえます。

細胞内で作られたレチノイン酸は核に移動するとレチノイン酸結合蛋白(受容体)に結合します。この結合体は二つ集まって初めて遺伝子に働きかけることが出来ます。レチノイン酸は活性の違うトランス型とシス型の二種類の活性に分かれ、それらが相互に入れ替わることで濃度を調整し、活性の強度や時間を微細かつ厳密に調節しています。

先月号でご説明したように、ビタミンAはいまだに誤解の多いビタミンです。例えば、ビタミンAを摂取すると皮膚がやや黄色味を帯びることがあり、過剰症なのではないかと心配される方がいます。しかしこれはたんぱく質の不足によるものと考えられます。ここまで読んでくださった皆様なら、ビタミンAを運搬するためにはタンパク質が不可欠であることがわかるでしょう。同じような症状では黄疸が疑われますが、黄疸の場合眼球結膜(白眼のところ)も黄色くなります。ビタミンA摂取による症状の場合、結膜は黄色くなりません。この時はたんぱく質の摂取量を増やすと肌の色が正常に戻ります。

このように、体はビタミンAに対して様々な調節機構や安全弁を持っています。そして調節機構を十分に働かせるためにはたんぱく質が十分にあることも重要です。知識を身につけて賢く栄養を利用しましょう。

次回はビタミンAの具体的な作用について説明します。

栄養素利用の優先順位


たいていの栄養素は一か所ではなく複数の場所で使用されています。例えば鉄は赤血球の中のヘモグロビン、筋肉中のヘモグロビン、神経伝達物質を作る酵素、コラーゲンを形成する酵素、エネルギーを産生する酵素などに含まれています。また白血球が殺菌作用を発揮する時にも使用されます。

鉄が欠乏した時、鉄を利用する各部位での鉄欠乏の程度は同じではありません配給には優先順位が存在します。この優先順位を分子栄養学ではカスケードモデル(三石巌先生 著)で表現しています。栄養素はカスケード(段々滝)を流れる水で、一段ごとに水車、取水口とコックが存在しています。流れが涸れると下流の水車は回らなくなります。水車の並ぶ順番は確率的親和性によって決まっています。(確率的親和性についてはまた機会をみて説明しますが立体構造に関係していて遺伝的に決まっているものです)。

 


鉄の場合、貯蔵の量によりくみ出して供給できる範囲が変わって来ます。食事から供給された鉄は主に小腸の上皮細胞に、赤血球などから再利用される鉄は肝臓や脾臓、骨髄などの場所に貯蔵されています。貯蔵鉄が十分ある時はパイプの上の方まで全部に供給されます。ところが貯蔵が少なくなると優先順位の高いものにしか鉄が配給されなくなります

人間にとって優先順位の高いのは酸素の供給ですから赤血球の合成が最優先です。鉄欠乏貧血になった時にはすでに鉄の貯蔵が空っぽになっています。貧血になる遥か以前から鉄欠乏の様々な症状が出現しているはずです。貧血でなければ鉄欠乏の検査や治療をする必要はないという保険治療の原則はナンセンスであることがわかるでしょう?

上記のモデルが示すことは、栄養欠乏になるとある代謝が止まってしまうこと、止まる代謝の種類や順序は個人個人の体質で違っていることの2点です。ですから同じ鉄欠乏症でも白血球の働きが悪くて風邪を引きやすい人もいれば、コラーゲン形成が悪くてあざが出来やすい人もいます。神経伝達物質の合成が低下してうつ症状が最初に出てくる人もいます。栄養欠乏と症状が一対一に対応しない理由がここにあります。他のすべての栄養素についても同じように優先順位に差があります。栄養素のこのような特徴を理解すると潜在性欠乏症の治療がいかに重要か分かっていただけると思います。

 

健康の感じは、病気によってのみえられる

リヒテンベルグ「人間についての観察」