2012年1月10日

暮らしに役立つ栄養療法
-歯と糖尿病の話-


落語に「前歯が抜けて『これがほんまの歯無し家(噺家)』」なんて落ちがあります。歯周病になると早く歯が抜けて話(歯なし)になりません・・・・(笑)と冗談を言っている場合ではありません。

歯周病は歯茎が腫れたり歯がぐらぐらしたりしてそれ自体が大いに問題ですが、歯周病菌が糖尿病を悪化させたり、心臓の弁の傷害を起こすことがあることをご存知ですか。例えばある歯周病菌は実際にTNFαという物質を分泌することが確かめられています。TNFαと言えば活性化マクロファージから発見された腫瘍細胞を壊死させるサイトカインの一種ですが、その後いろいろな作用が分かって来ました。血管内皮細胞から出て血栓の出来やすい状態にしたり、肥満した脂肪細胞から出てインスリンの効き目を悪くしたり中性脂肪を増加させたりもします。

 カロリー制限をしたり薬を飲んだりしてもなかなか良くならない糖尿病の患者さんがいました。ある時「歯はどうですか?」と尋ねたところ、近年は歯科医に行ったことがないという返事。口の中を診ると舌苔があり歯周プラークがびっしりでした。そこで歯科に治療に行っていただいたところ見事に糖尿病が改善し、薬も減らすことが出来ました。歯周病菌が悪さをしていたんですね。

たかが歯周病と侮ることなかれ! 口腔内の健康は全身の健康にもつながります。症状がなくても定期的に歯科検診を受けて大事な歯と歯茎を守りましょう。

サプリメント小話
-バイオラクトの話-


小腸と大腸には合わせて100兆個以上もの細菌が常に住んでいるそうです。一部は有用菌(善玉菌)、一部は有害菌(悪玉菌)で残りは日和見菌です。日和見菌や有害菌は腸内細菌のバランスがとれている時には特に悪さをせず共生しているのですがバランスが乱れると病原性を発揮したり有害物質を出したりします。

腸内細菌は種類ごとにパッチ上に固まって生息しているので腸内細菌叢(フローラ=お花畑)という名前がついています。

 若い時にはラクトバチルス菌とビフィズス菌(善玉菌)が比較的多く、年齢とともに大腸菌やウエルシュ菌(悪玉菌)などの割合が増えてきます。

お腹の中にいる赤ちゃんの腸にはまだ菌がいません。生まれてきた後1日か2日たってからラクトバチルス菌とビフィズス菌が急速に増えてきます。これらの菌がどこから来たのかはよく分かっていませんが産道を通る時や生まれてから菌が感染するようです。母乳栄養児とミルク栄養児では菌の割合が違うことから、母乳中にはこれらの善玉腸内細菌を増やす物質が豊富に含まれていると推定されています。
 

20歳を過ぎるとリンパ球の教育担当機関が胸腺から小腸のリンパ組織(パイエル板など)に移っていきます。腸の内腔は外界に接しているので様々な物質が入り込んできます。害のあるものとないものを判別しながら指令を送り、上手に害のあるものだけを排除します。この情報は腸だけでなく全身に送られます。

腸内細菌のバランスが崩れると免疫の仕組みにも影響が出ます。Th1というリンパ球の働きが過剰になると自己免疫疾患に、Th2というリンパ球の働きが過剰になるとアレルギー疾患になりやすくなります。

また、バランスの崩れにより免疫機構やバリア機構が低下感染やがんなどの危険が高まります。最近では神経伝達物質や代謝を通してうつ症状や自閉症などに関わっていることがわかってきています。

腸内細菌の分布は年齢だけでなく食べ物や住む地域によっても変わり、善玉菌の住みやすい環境を維持することで腸のアンチエイジングが出来ます。

バイオラクトに含まれているラクトフェリンは、母乳に多く含まれる物質です(牛の初乳を集めて作ります。牛乳ではヒトの母乳より含有量が少ないので作るのは大変です)。鉄を吸着して有害細菌の増殖を防ぐ働きがあります。またバイオラクトには善玉腸内細菌と善玉腸内細菌を増やすのに役立つオリゴ糖がバランスよく配合されています。

腸の健康は健康長寿のもと! 食物繊維とバイオラクトで腸の健康を取り戻しましょう!

ミニコラム
-早産は鉄欠乏のサイン?-


胎児はたくさんの鉄を蓄えて生まれてきます。生後1年間は体が急速に大きくなる時期で赤血球や筋肉にたくさんの鉄を使用するからです。母乳にはそれほど多くの鉄が含まれていません。妊娠の後半になってお母さんの鉄が足りなくなると胎盤にたくさんの鉄の受容体が出来ます。胎盤も大きく広がります。あまり大きく広がり過ぎると剥離しやすくなり胎盤早期剥離や早産の原因になります。鉄をしっかり食べることはこのような原因による早産を予防するのに役立ちます。

早産で生まれた赤ちゃんは、まだ十分に鉄を蓄えていません。生まれてすぐからの急激な成長には母乳の鉄だけでは足りないのでミルクや水分にヘム鉄を加えて補給しましょう。

ミニコラム
夜泣きは予防できる!
-ビタミンB群で楽々子育て-


生まれて数カ月の赤ちゃんは夜中もおっぱいを飲むのが普通です。だいたい3時間ごとに目が覚めて母乳を飲むとまた眠ります。最初は大変ですが赤ちゃんの起きるリズムとお母さんの眠りのリズムが同期してきて段々楽になってきます。ところがおっぱいを飲んでもぐずっていつまでも泣いている赤ちゃんやいつもイライラした感じでぐっすり寝ない赤ちゃんがいます。その場合にはビタミンB群不足を疑ってみてください。赤ちゃんだって眠るためには眠りの神経伝達物質が必要です。ビタミンB群不足では合成や調節が出来ないことがあります。母乳を飲んでいる赤ちゃんの場合はお母さんがビタミンB群を摂って母乳を通して与えましょう。ミルクの場合には赤ちゃんにも安全なビタミンB群サプリメントをミルクか湯ざましに溶かして飲ませます。夜泣きに疲労困憊する前にお母さんの栄養状態をチェックしてみましょう。赤ちゃんにも同じ栄養欠乏があるはずです。

食事療法の嘘?本当?
-妊娠糖尿病と言われたら-


医学も進歩して多くの母子の命を救うことが出来るようになりましたが、まだまだ命に関わる合併症も存在します。妊娠合併症を防ぐことは健康な赤ちゃんをより安全に出産する上で欠かせません。

代表的な妊娠合併症の一つに妊娠糖尿病があります。また妊娠前から糖尿病だった方も悪化しやすい時期なので注意が必要です。

糖尿病に対してまだまだカロリー制限を中心とした指導が行われていますが、妊娠期にはたくさんの栄養素が必要です。カロリー制限でみなさんが真っ先に控えるものはなんでしょう? 肉や卵、揚げ物やお刺身、たらこやいくらといったところでしょうか(何故か大福やケーキは食べたりしますけれども・・・)そして豆腐や野菜とご飯が中心のメニューになることでしょう。

豆腐などの大豆製品と野菜とご飯に含まれる必須栄養素を計算してみましょう。必須栄養素(ビタミンB群や鉄、亜鉛など)の含有量の少なさに愕然とするはずです。たんぱく質の中でもいくつかのアミノ酸はかなり不足しています。ではどの食品がどれだけカロリーがあるのか、どれだけ血糖値を上げるかを計算してください。意外にご飯のカロリーは多いこと、血糖値を上げやすいこと、肉や卵や脂質はあまり血糖値を上げないことなどに気づくでしょう。血糖値を上昇させるのは糖質・炭水化物だけです。合理的に考えれば糖質と炭水化物を減らすことが糖尿病の予防と治療に最も重要です。かわりにたんぱく質食品を摂ればビタミンB群や鉄、カルシウムなど胎児の成長に必要な栄養素を摂ることにつながります。

 すでに多くの方が糖質制限食による安全な出産を経験しています。安全な妊娠と出産のために糖質制限食が出来るだけ早く一般に普及することを願っています。

ビタミンEの話②
-ビタミンEの多彩な働き-


前回は天然型ビタミンEとビタミンE製剤の違いについて説明しました。今回はビタミンEの多彩な働きについて説明しましょう。

ビタミンEは脂に溶けやすい形をしています。体内に吸収される時は脂肪と一緒に移動し最終的に細胞脂質膜に辿り着きます。リポ蛋白の奥深くにしまわれて運ばれリポ蛋白の酸化防止にも役立っています。細胞の数は60兆個とも言われそのすべての細胞膜にビタミンEが入り込むためにはたくさんのビタミンEが必要になります。特に酸素の多い肺や心臓、赤血球の膜には多く分布しています。特に酸化しやすい不飽和脂肪酸のすぐ近くに入り込んで酸化したらすぐに元に戻す働きをしています。

 


副腎皮質や下垂体といったホルモンを産生する場所にもビタミンEが多く存在します。これはビタミンEがホルモン分泌を調節する役割があるからです。もともと妊娠しやすいビタミンとして見つかったので女性ホルモンには関係が深いのですが、副腎皮質ホルモンや抗利尿ホルモンにも関係しています。γ型のビタミンEの代謝物はナトリウムを排泄する働きがあり、月経前症候群などのむくみを改善します。

また炎症や血栓に関係するプロスタグランジンの代謝を調節しています。ビタミンEは複数の方法を使って動脈硬化や血栓を予防してくれています。

脂ものを避けている方はビタミンEが不足します。良質の油脂や種子をたっぷり摂りましょう。

栄養療法に何が出来るか-生・老・病・死-
-生命の誕生②-


前回から、生命の神秘-生命の誕生について栄養の立場からお話をしています。今回は妊娠後期や授乳期の栄養の話です。

つわりが終わってお腹が目立つようになってくるころには赤ちゃんの器官の分化はほぼ終わり流産の確率も減ります。赤ちゃんは成長と成熟の時期を迎えます。赤ちゃんの成長に合わせてお母さんの食欲も出てきます。健康な赤ちゃんを安全に出産するためにはどんな点に気を配ったらよいのでしょうか。そのヒントは赤ちゃんが必要とする栄養にありそうです。正しい食事は妊娠合併症の予防にも役立ちます。ゆったりとした気持で新しい生命を育んでいきましょう。

妊娠後期の栄養

安定期にはいると日に日にお腹が大きくなっていきます。胎児の動きも感じられるようになります。これからは体が成長するのに必要な栄養素をたくさん摂る時期です。体の成長に必要な栄養素は何か、具体的に考えてみましょう。

まず体の材料はすべてたんぱく質が基本となって出来ています。筋肉も骨の土台も血管も赤血球の中身も細胞の酵素も全部たんぱく質です。神経は脂質が多い組織ですがたんぱく質の働きなしには形成出来ません。たんぱく質をきちんと摂ることにまず心を配りましょう。

赤血球や筋肉には酸素を運ぶための鉄が必要です。赤血球や筋肉の量も勢いよく増えていきますから鉄の摂取量を増やしましょう。生まれてから間もなくは成長のスピードが早いため赤ちゃんはある程度鉄を貯えて産まれてきます。この時期に十分な貯えが出来ないと母乳だけでは足りなくなり赤ちゃんの成長が遅れてしまいます。またお母さんの貯蔵鉄が不足すると産後のうつ症状につながることがあります。吸収のよい動物性の鉄(ヘム鉄など)を中心に食べてください。

骨の成長も著しいですね。コラーゲンなどで出来た骨組みにカルシウムが沈着して硬い骨が形成されていきます。食べる量が少ないとお母さんの骨からカルシウムの移動が起こります。カルシウムは骨を形成するだけでなくマグネシウムと協調して血圧や自律神経やホルモンなど体内の調節シグナルに関わっています。妊娠合併症の予防にも大変重要なミネラルです。

たんぱく質が正常に働くために補酵素の役割も忘れてはなりません。代表的なのはビタミンB群です。ビタミンB群は、エネルギー産生はもちろん、たんぱく質の合成や神経の機能にも関わっています。脳の発達にも大変重要です。

このように見ていくと、食事はカロリーではなく栄養素の量で考えることが大切であることがわかりますね。コレステロールや必須脂肪酸などの脂質も体を形成する上で大切な栄養素です。必要な栄養素をしっかり摂ったうえでカロリーの調節を行いましょう。

妊娠期のアレルゲン除去食について

妊娠中に、アレルギーの原因物質になりやすい食べ物(卵、牛乳、大豆など)を避ける食事療法は今ではほとんど行われていないようです。栄養医学の観点からもお勧めしません。お母さん自身がアレルギーで食べられない食品以外はたんぱく質食品を避ける必要はないでしょう。むしろ腸の環境を整えて低分子まで消化して吸収できるようにしながら、たんぱく質食品に含まれる必須栄養素を十分摂る事に利点があります。お母さんが多くの食品にアレルギーを持っている場合は、アミノ酸やペプタイド(分解したたんぱく質)や必須栄養素のサプリメントを使用して必須栄養素が不足しないように心がけてください。