2011年11月10日

サプリメント小話
-コエンザイムQ10の話-


コエンザイムQ10は体内で合成される抗酸化物質の一つです。年齢とともに合成量が減ります。コエンザイムQ10を美容のためのサプリメントと思っている方も多いでしょうがそれ以外にも重要な働きがあります。それは心筋細胞などにエネルギーを送る働きです。下の図を見てください。エネルギー(ATP)を作り出す電子伝達系というシステムの図です。コエンザイムQ10はこの装置に組み込まれて電子を受けわたしエネルギー産生のカギを握っています。と同時にフリーラジカルや活性酸素を消去しています。

 


心臓の筋肉では24時間エネルギーを生み出す必要があるためコエンザイムQ10もたくさん必要になります。心臓に負担がかかっている方には特にお勧めです。エネルギーを産生する時には必ず活性酸素が発生します。コエンザイムQ10はエネルギー生成の場で抗酸化作用を発揮するのでアンチエイジングにもなります。

コエンザイムQ10はコレステロールと同じ経路で合成されています。コレステロール合成を抑える薬(スタチン系の高脂血症薬)を飲んでいる方はコエンザイムQ10の合成も減っています。どうしても薬を飲まなければならない方はぜひコエンザイムQ10の補充を考えましょう。

暮らしに役立つ栄養療法
-放射線防御-


首都圏でも放射能測定がだいぶ進み、離れた場所でも多くのホットスポットが存在することがわかってきました。土壌に堆積した放射性物質がなくなるにはある程度の時間がかかるので、健康への影響を心配されている方も多いと思います。

放射線はどのようにして健康に被害を及ぼすのか、どうやったら健康被害を予防することが出来るのか、これだけ情報がたくさんあっても明確には知らない方が多いのではないでしょうか?

少ない放射線による健康被害は「確率」つまり運だと考えられていた時期がありました。しかしどうも運だけではないようです。というのは放射線の影響を受けた時に体は様々な防御力を発揮しているからです。したがって放射線による影響の受けやすさには個人差があり、体の環境を整えたり防御力を高めたりすればある程度放射線による健康被害を防ぐことが出来ます。

私たちのクリニックでは、「放射線被ばくに関する健康相談」を開設しています。防御力を高めることは他の原因による病気を予防することにも役立ちます。ぜひご相談ください。

食事療法の嘘?本当?
-脂質代謝③-


いよいよ今回は糖質制限食と脂質の具体的な関係について見ていきましょう。

 私たちが薬を飲んだり食事療法をしたりするのは何のためでしょうか? 将来の病気を予防するためですね。つまり動脈硬化を予防して脳梗塞や心筋梗塞にならないようにするのが目的です。血液中のコレステロールはリポ蛋白(脂質たんぱく複合体)で運ばれることを前回お話ししました。血管腔に接している内皮細胞の間をすり抜けて動脈硬化を起こすことが出来るのは酸化・変形したリポ蛋白だけです。リポ蛋白の量はフィードバック機構によって調節されています。コレステロールは必要なだけ肝臓で合成され、合成量は食事から吸収される量の2-3倍に及びます。

糖質制限食を行うとLDLコレステロールが上昇する人がいます。そのような人はやっとコレステロールを合成する能力を持ったことになります。つまりカロリー制限食の時は材料であるたんぱく質とビタミンB群などの栄養不良のため合成が出来なかったということです。コレステロールは体の機能を発揮させるために大変重要なものです。直後に急激に上昇してもフィードバックにより2-3か月でその方にとって理想的な量に落ち着きます(仮に基準値を超えていてもその人にとっては理想値となります)。

 最近動脈硬化を起こす原因として中性脂肪を多く含んだ小型リポ蛋白(small dense LDL)が注目されています。このsmall dense LDLは利用されにくいうえに酸化しやすく、動脈硬化を起こしやすいことから最近では超悪玉と呼ばれています。small dense LDLは内臓脂肪とともに増えます。内臓脂肪に最も関係が深いのは糖質・炭水化物とインスリンの過剰な分泌です。

糖質制限食を開始すると、直後から中性脂肪の低下や体脂肪率の減少が見られ持続します。また糖質制限食は血糖値を安定させるため、細胞内や血液中の酸化を減らすのに大変役立ちます。こうして見ると、糖質制限食は動脈硬化の予防におおいに役立つと思うのですがいかがでしょうか。

ビタミンEの話
-抗不妊因子として見つかったビタミンE-


ビタミンEの化学名はトコフェロール(tocophErol)と言います。tocosは分娩とか子供、phEroは引き起こすという意味です。この名前から想像されるように不妊ネズミの実験から妊娠を起こしやすくするビタミンとして1922年に発見されました。妊娠活性が最も高いのはαトコフェロールという形で現在のビタミンE製剤はこの安定誘導体です。

その後、ビタミンEには抗酸化作用があることがわかりました。つまり活性酸素やフリーラジカルを消去する役割です。特にコレステロールや細胞の脂質膜などを酸化から保護する役割をしています。この抗酸化作用はαトコフェロールが最も弱くβγδトコフェロールの方が強いのです。ところがビタミンEの活性は妊娠活性で決められているので、ビタミンE製剤や市販の合成ビタミンEαトコフェロールが中心となっています。抗酸化作用を期待するのであれば天然型ビタミンE、特にγδを多く含むものでないと効果が出ません。

ビタミンEは図のような構造をしています。2つつながった環にOHが1つついていてこのHが抗酸化作用を持っています。ぎざぎざの脚のところも重要で、細胞脂質膜に入り込んで自在に移動しています。

 


ビタミンE製剤は、安定性を保つためにOHの大切なHを別の形に変えてしまっています。その結果ビタミンE製剤の多くは胆汁と一緒に排泄されてしまい、体内に入った分も抗酸化作用があまり期待できないことになります。天然型ビタミンそのものを薬に出来ないのは大変残念なことです。抗酸化作用を期待するのであれば天然型ビタミンEを摂りましょう。

 次回はビタミンEの多彩な働きについて説明します。

ミニコラム
-卵はいつ出来るか-


受精卵のもとになる卵がいつ出来るか知っていますか? 母親となる女性が胎児だった時にすでに卵のもとはすべて作り終わっています。思春期になるとホルモンの働きにより成熟し排卵が始まります。数百万あった卵の数は出生頃に急速に減り、思春期で1030万個、その後は月1000個ぐらいの速さで減っていきます(下図)。卵は年齢と一緒に歳をとっていくので30代後半から40歳を過ぎると染色体異常や流産の率が上昇します。ライフスタイルが変化しても女性としての体を大事にして欲しいなと思います。ただし卵巣の状態にも個人差がありますので焦ったり諦めたりせずに、よい体作りを心がけましょう。
 

栄養療法に何が出来るか-生・老・病・死-
-生命の誕生①-


今回からは少し明るい話題生命の誕生です。医学が進歩した今でも生命の誕生が自然の神秘であることは変わりありません。栄養医学は生体が本来持っている機能を最大限に発揮できるように整えていく方法です。薬での治療が難しい分野=生命の誕生や成長においても大いなる力を発揮します。

 大人が日々生きていくにも多くの栄養素が働いていますが、胎児期にはたった1個の受精卵から数十兆個の細胞、総重量3kgのヒトを造り上げるのですから莫大な栄養素が必要です。栄養療法が妊娠・出産・子供の成長にどのような可能性を広げることが出来るのか、一緒に見ていきましょう。

不妊治療と栄養療法

 赤ちゃんが欲しいけれども恵まれない不妊。一口では説明出来ないほど様々な要因があるでしょう。子供を授かることがすべてではありませんが、悶々と悩んでいるのであればぜひご相談を! 意外なところに原因があるかもしれません。

 生命の誕生は神秘です。たったひとつの受精卵から数週間でヒトの形が出来上がります。その間細胞分裂と細胞の消滅、役割分担(分化)が発生プログラムに従って間違わずに進んでいきます。赤ちゃんを育てるには、赤ちゃんが育つだけの十分な栄養素が必要です。母体に栄養不足があったり身体的または精神的な大きなストレスがかかったりしていると、体は胎児を十分に育てられる条件がそろっていないと判断します。その結果排卵が止まったり、受精したのに着床(受精卵が胎盤に定着して育ち始めること)が成功しなかったりします。男性側に要因がある場合もあり、精子を分裂させたり成熟させたりする栄養素が不足していると受精がうまくいきません。

 栄養欠乏はカロリーの多寡では判定出来ません。赤ちゃんの細胞を分裂させ体を造り上げる栄養素にかなりの余裕があることが大切です。若い女性のほとんどはが欠乏しており不妊の大きな要因となっています。鉄以外にもたんぱく質が不足していたり、ビタミンBが不足していたり、ビタミンEが不足していたりと様々な要因があります。栄養解析では、様々な栄養欠乏を診断することが出来ます。栄養が改善すると辛かった体調や精神状態もかなり改善します。結果として自然妊娠に至る方もいます。まずは本来の体を取り戻すために栄養療法を始めましょう。

胎児初期の栄養

 胎児の初期(受精直後から7週ごろまで)は細胞分裂が大変に活発で分化による器官の形成も行われます。妊娠に気づくころには心臓や脳・脊髄などがほぼ出来上がっています。胎児の大きさはまだ大変に小さくカロリーはあまり必要ありません。細胞の分裂と分化、胎盤形成の助けとなる栄養素の摂取を増やしましょう。細胞分裂に必須の亜鉛、分化を助けるビタミンA、遺伝子やたんぱく質の合成に不可欠なビタミンB群やたんぱく質、胎盤を形成し血流を増やすための鉄などをどんどん摂ってください。安全性を考えて必ず食品または天然型のサプリメントから摂りましょう。この時期に葉酸が欠乏していると神経の管がうまく閉じることが出来ずに二分脊椎や無脳症、心臓の奇形などが起こります。葉酸はビタミンB12や他のビタミンと一緒に働くので葉酸だけではなくビタミンB群全体を摂りましょう。

 つわりが起こるのもこの時期です。妊娠前からしっかりとした栄養を摂っているとつわりも軽くすむことが分かっています。特にビタミンB6はつわりの予防に役立ちます。


 お腹が目立つころにはつわりも軽くなってきます。いよいよ赤ちゃんが大きくなる時期の始まりです。

次回も、妊娠後期の栄養や合併症・早産の予防、授乳期の栄養などを取り上げます。お楽しみに。

2011年10月10日

サプリメント小話
-ナットウキナーゼ-


栄養素以外にはどんなサプリメントがあるのか? そんな疑問にお答えするコーナーです。今回はナットウキナーゼの紹介です。

 ナットウキナーゼは、名前から想像されるように納豆からみつかった酵素です。納豆菌によって作られ血栓を溶かす働きがあります。1980年須美先生が発見しました。ナットウキナーゼは直接血栓を分解するほか、体内にある血栓を溶かす物質を活性化します。

 脳梗塞などの時に使用されている血栓溶解薬は数分から数十分で効果が消えてしまいます。それに対してナットウキナーゼは、個人差はあるものの4時間~12時間効果が持続します。出来た血栓を溶かすだけなので出血という副作用もありません(ただし他の薬と併用するときは若干注意が必要です)。

 小さな血栓は気付かないうちに毎日出来て自然に消えています。納豆菌の作るナットウキナーゼは小血栓を溶かすので血流を維持し小さな梗塞を予防するのに大変効果的です。脳梗塞は夜中や明け方に起こりやすいので、持続時間から逆算すると寝る前に約100gの納豆をよく混ぜて食べる必要があります。よく混ぜるのは「ねばねば成分」でナットウキナーゼを覆って消化による分解を防ぐためです。サンプルで調べたところ納豆の製品によっては含まれるナットウキナーゼの量に多少のばらつきがありました。

 夜に納豆を食べるのは大変! という方はサプリメントを利用するのも一つの手でしょう。夜間や明け方の梗塞予防には就寝前の服用が、1日中効果を持続させたい場合は12回の服用が効果的です。

暮らしに役立つ栄養療法
-お腹の不調を感じたら・小腸の栄養-


暑さがようやく和らぎ食欲の秋となりましたが、夏の終わりごろからお腹の調子がどうも優れないという方はいらっしゃいませんか? お腹の夏バテかもしれません。

 


小腸は栄養の消化吸収の要! 自律神経やホルモンを通じて全身に指令を出したり、口からの侵入物に対する砦として防御機構を担っていたりします。

 大忙しの小腸細胞はつねに活発に細胞分裂を行っています。細胞分裂にも消化吸収にもたくさんの栄養素が必要です。小腸はぶどう糖ではなくグルタミンやポリアミン、短い脂肪酸などを栄養としています。もし小腸がぶどう糖を消費するとしたら体内に吸収するエネルギー源が減ってしまいますよね。これも体の知恵の一つですね。グルタミンやポリアミン、脂肪酸などのエネルギー源や細胞分裂のための栄養素が不足すると小腸の絨毛(上図)は短く薄くなって消化機能も衰えてしまいます。

食欲がないからといって消化のよいものばかり食べているとついついたんぱく不足になり胃腸が弱ってしまいます。食べられる腸を作るため、少量のたんぱく質やアミノ酸を何回かに分けて食べていきましょう。 

食事療法の嘘?本当?
-脂質代謝②-


前回、脂質には大きく分けて中性脂肪とリン脂質、コレステロールの3種類がありそれぞれの形や働きも違うことを説明しました。今回は吸収された脂質がどのような経路をつかって運ばれるかを見てみましょう。

 小腸で吸収された脂質はすぐにたんぱく質と合体しリポ蛋白という塊をつくります。脂質が血液中を移動する時にはたんぱく質といつも一緒です。全身を回って中性脂肪やリン脂質を配って回ります。全身に早く配りたいものは外側に配置されます(図1)。中性脂肪やリン脂質などは一回全身を回っただけでほとんどが細胞に荷降ろしされます。

リポ蛋白の中央は脂溶性ビタミン(ビタミンAE)、コレステロールなどがしまわれていて蛋白と一緒に肝臓に取り込まれます。肝臓では、必要に応じてコレステロールや脂肪が合成され再びリポ蛋白の形で全身に運び出されます。1日に必要なコレステロールは食品に含まれる量だけでは足りず食べた量の23倍肝臓で合成されていると考えられています。

 


血液中のコレステロール、中性脂肪は実際にはリポ蛋白を測定しています。図2のようにリポ蛋白は脂質を細胞に配っていくにつれて密度や大きさが変わります。密度が変わると名前が変わります。悪玉といわれるLDLコレステロールも善玉といわれるHDLコレステロールもリポ蛋白の一形態です。HDLコレステロールはコレステロールを回収する力が強いので善玉と呼ばれるようになったのでしょう。 

 


 肝臓にはコレステロールの合成量を調節する機構があります。食べる量が多ければ合成量が自然に減ります。したがってLDLコレステロールが増えるのは食べるコレステロール量が多いからではありません。細胞が中性脂肪や脂肪酸をうまく受け取れない時(内臓脂肪の増加など)と血液中の活性酸素が増えてリポ蛋白が変形してしまった時です。そして内臓脂肪の増加と活性酸素の増加には血糖値の急上昇がおおいに関わっているのです。

 次回はいよいよ糖質制限食と高脂血症の関係に迫ります。ご期待下さい。

ナイアシンの話②
-ナイアシンは何をしているのか-


抗うつ剤として現在使われている薬の多くは、神経と神経の間に分泌されたセロトニンやドーパミンの取り込みを遅くして効果を長持ちさせることにより効果を発揮します。いわばリサイクル・リユースです。でも合成量そのものが足りなければ、長期間薬を服用しなければならなかったり、薬の効き目が不十分だったりします。

自前のセロトニン分泌を増やすためには何が必要か? その鍵はアミノ酸と鉄とナイアシンにあります。ナイアシンはセロトニンを合成するときの補酵素として活躍しています。

ナイアシンが薬よりも安全な理由は、セロトニンの合成量が体内できちんとコントロールされているからです。不足の場合は調整出来ませんが、多すぎる場合は体が自分で調節するので過剰になる心配はありません。

ナイアシンの利点はもう一つ、睡眠ホルモンを同時に正常化することです。睡眠に重要なメラトニンの多くはセロトニンから合成されています。うつの時には睡眠にも問題があることが多いのですが、ナイアシンは自然のリズムを取り戻し睡眠を改善します。

ナイアシンの活躍の場は大変広く、必要量も個人個人で大きく変わります。たとえば、あまり知られていない重要な働きとしてエネルギーの運び手としての役割があります。エネルギーは最終的にATPという形をとります。このATPを産生する電子伝達系に電子を運ぶ役割をしているのがナイアシンから出来るNAD(H)NADP(H)です。NAD(H)NADP(H)は酵素の約20%、約500種もの酸化還元反応に関係しているのでナイアシンの量が体内の多くの活動を左右していることがわかります。
 
 

ナイアシンにはそれ以外にも遺伝子の修復を調整したり神経周囲のミエリン鞘を正常化したりと多彩な働きを持っています。

前回、ナイアシン欠乏によって皮膚、消化管、脳に影響が出る話をしましたが、ナイアシン欠乏が広範囲に影響を与える理由がこれでお分かりいただけたと思います。

ビタミンCと同様、ナイアシンも必要量の個人差が大きい栄養素の一つです。厚労省が発表しているナイアシンの一日所要量は成人男性16mg、成人女性13mg。栄養療法の効果を見ながら調節していくと人によっては3000mg以上必要となることがよくあります。実に200倍もの違いがあります。

ナイアシンにはナイアシンとナイアシンアミドの形があります。日本人の場合大量のナイアシンを摂ると血管が拡張して顔などが真っ赤になるホットフラッシュの症状が出ることがあります。サプリメントで摂る時はナイアシンアミドの形で摂りましょう。