2011年3月10日

栄養素利用の優先順位


たいていの栄養素は一か所ではなく複数の場所で使用されています。例えば鉄は赤血球の中のヘモグロビン、筋肉中のヘモグロビン、神経伝達物質を作る酵素、コラーゲンを形成する酵素、エネルギーを産生する酵素などに含まれています。また白血球が殺菌作用を発揮する時にも使用されます。

鉄が欠乏した時、鉄を利用する各部位での鉄欠乏の程度は同じではありません配給には優先順位が存在します。この優先順位を分子栄養学ではカスケードモデル(三石巌先生 著)で表現しています。栄養素はカスケード(段々滝)を流れる水で、一段ごとに水車、取水口とコックが存在しています。流れが涸れると下流の水車は回らなくなります。水車の並ぶ順番は確率的親和性によって決まっています。(確率的親和性についてはまた機会をみて説明しますが立体構造に関係していて遺伝的に決まっているものです)。

 


鉄の場合、貯蔵の量によりくみ出して供給できる範囲が変わって来ます。食事から供給された鉄は主に小腸の上皮細胞に、赤血球などから再利用される鉄は肝臓や脾臓、骨髄などの場所に貯蔵されています。貯蔵鉄が十分ある時はパイプの上の方まで全部に供給されます。ところが貯蔵が少なくなると優先順位の高いものにしか鉄が配給されなくなります

人間にとって優先順位の高いのは酸素の供給ですから赤血球の合成が最優先です。鉄欠乏貧血になった時にはすでに鉄の貯蔵が空っぽになっています。貧血になる遥か以前から鉄欠乏の様々な症状が出現しているはずです。貧血でなければ鉄欠乏の検査や治療をする必要はないという保険治療の原則はナンセンスであることがわかるでしょう?

上記のモデルが示すことは、栄養欠乏になるとある代謝が止まってしまうこと、止まる代謝の種類や順序は個人個人の体質で違っていることの2点です。ですから同じ鉄欠乏症でも白血球の働きが悪くて風邪を引きやすい人もいれば、コラーゲン形成が悪くてあざが出来やすい人もいます。神経伝達物質の合成が低下してうつ症状が最初に出てくる人もいます。栄養欠乏と症状が一対一に対応しない理由がここにあります。他のすべての栄養素についても同じように優先順位に差があります。栄養素のこのような特徴を理解すると潜在性欠乏症の治療がいかに重要か分かっていただけると思います。

 

健康の感じは、病気によってのみえられる

リヒテンベルグ「人間についての観察」