2024年7月1日

新型コロナ感染症と迷走神経障害

 

新型コロナの後遺症long COVID)では、実に多彩な症状が出現します。ウイルスが消えても症状が続くことや、感染の初期にはなかった症状が後から出現することから、ウイルスが直接臓器を障害すると考えただけでは説明できない事象がたくさんあります。通常行われる検査では異常が出ないことも多く診断を難しくしています。例えば、画像上肺の障害がほとんどないのに息切れがひどかったり、声の出方が変わってしまったり、咳が長引いたり、横になると逆流症状がひどかったり、飲み込みにくかったりといった具合です。立ち上がると動悸がしたり、めまいがひどくて立っていられなかったりして、日常生活がままならないという人もいます。倦怠感、頭の働きが悪い(ブレインフォグ)ことなどから人生が変わってしまった方も多数いらっしゃいます。


新型コロナの後遺症の原因として、免疫系の異常や炎症の遷延、ミトコンドリアの機能不全などの仮説がたてられ研究が行われています。脳の慢性炎症を示唆する論文もあり、脳血液関門の破壊、神経間シナプスの減少、神経を栄養する細胞の異常などが報告されています。迷走神経の障害が何らか関与しているという発表もあります。ある研究チームが後遺症患者を対象に超音波検査をしたところ、首から胸部に伸びる迷走神経の全体に著しい肥厚が見られたというのです。また、不幸にも亡くなった方の迷走神経を調べると炎症細胞の浸潤を認めたという論文もあります。迷走神経は広範な領域を支配する脳神経ですので、迷走神経の機能低下が様々な症状の原因となるという考え方は説得力があります。


迷走神経の障害が本当に症状の原因なのか、どのような方法で回復し、回復までどのくらいかかるのかなどまだまだ分かっていないことばかりです。それでも、迷走神経に対するアプローチで助かる人がいれば、今後の後遺症治療の光明になると考えます。