免疫とは、体に本来はない異物を「自分ではない」と認識して攻撃し排除する働きのことです。感染の原因となるウイルスや細菌、体の中で出来た異常な細胞などを監視して排除するこの免疫は健康を維持するうえで欠かせないものですね。
ところが何らかの原因によって自分の体のある部分を「異物」と間違えて攻撃してしまうようになる病気が自己免疫疾患です。
例えば神経の髄鞘(神経細胞の周囲を囲んでいる鞘)が攻撃対象になった場合は、その神経の情報伝達がうまくいかず、視覚障害、しびれ、麻痺などがおこります。受容体に対する抗体が出来ると信号がうまく伝わらなかったり、逆に抗体刺激を信号と勘違いして信号が伝わりすぎたりします。
細胞と細胞をつなぐ結合組織にある分子が攻撃対象になった場合は、もっと複雑な症状が出ます。結合組織の分子は全身に分布しているので、皮下組織や血管、筋肉、それから肺や腎臓などの臓器も攻撃対象になってしまいます。全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎、シェーグレン症候群などがそれにあたります。
関節リウマチは人口の約0.5から1%がかかるポピュラーな病気なので古くから熱心に病因や治療法の研究がすすめられてきました。関節リウマチでは関節腔を包む滑膜に強い炎症が起こり近くの軟骨や骨が炎症によって壊れたり、関節以外にも眼や肺、腎臓などに炎症が起きたりします。複数の自己抗体が見つかっていましたが、標的になる分子にある特徴があることがわかってきました。それがシトルリン化された蛋白です。シトルリンはたんぱくを構成するアミノ酸の一つアルギニンが酵素によって変換されたものです。シトルリン化された蛋白に対する抗体(抗CCP抗体)を測定することで、リウマチの早期発見、治療の判断がかなり容易になりました。
自己免疫疾患の治療は過剰な免疫反応を抑えることが主眼になります。炎症物質の産生を抑える抗炎症薬、炎症物質のおおもとを抑え免疫全体を抑制する副腎皮質ホルモン、病状によっては免疫抑制剤、抗リウマチ薬(免疫調整の作用を持つ)も使用します。最近の治療の進歩としては、免疫反応の指令を伝える物質(TNFαやIL-6など)の働きを阻害する生物学的製剤が使用できるようになりました。
このような進歩によって自己免疫疾患の症状や病状はかなり改善できるようになりましたが、薬の副作用をなくすところまではいっていません。自己免疫疾患はなぜおこるのか、発症を予防することは出来るのか?次回は体の免疫調整機構に迫ってみたいと思います。